薫がセーラー服を着て学校に行くようになったのは中3の夏からだった。




当時付き合っていた彼女と別れた直後のこと。




ビジュアルが良い薫の周りには、いつでも彼女の座を狙う女の子が蔓延っていたけれど、カオルの姿になってからそういう女子は遠ざかっていった。




別れた彼女との間に何があったのかは知らない。


本人曰く、面倒な女避け目的でカオルを演じてるだけらしいけど。


ホントは他にもっと深い理由があるのかもしれない。



でも。
それだけであのクオリティに仕上げられるのは、きっと本人もそれなりにカオルの姿を楽しんでるんだと思う。
















「あのな。俺は一貫して男」


「はぁ?どこがよ」


呆れながらソファの前を通り過ぎようとした時、何が気に入らなかったのか薫は私の腕を引いてソファに座らせた。



「いたた、何…」

目の前に薫の顔があって、言葉に詰まる。

これも、わざとやってるの?

私が、薫に見つめられたらいつも降参するから。

私が、アンタのこと好きだから。


「好きな女の前ではオスになるよ、俺」


私の前ではならないくせに。


「……知らないよ。そんなの」


私がそう言うと、薫の綺麗な眉間にぐっとシワが寄ったのが分かった。

















「あら。薫くん積極的ね〜」


ふわりと香る焼鮭のにおい。


お母さんが呑気にそんなことを言いながら夜ご飯を運んできて私は慌てて立ち上がった。

「私っ、お風呂」





薫はなんて事ない顔して「さすがミエちゃん、料理上手」とか調子のいいこと言ってる。



それを背中で聞きながら心の中で呟く。





好きな女なんて、出来なくていいのに。