お昼になっても雪が止む気配は無い。
 ヒラヒラと舞い続ける雪を眺めながら、お弁当を取り出す昼休み。

 武内先生はまだ来ない。
 そんなことを考えていると、突如大きな声で私を呼ぶ声が聞こえてきた。


「柊木さん!!」
「……え?」


 勢いよく開いた扉から、焦ったような様子の武内先生が教室に飛び込んできた。

 目を見開いて近付いてきた先生は、私の腕を握り席から立たせる。


「ごめん、至急の用事。“君は嫌かもしれない”けれど、“君じゃなきゃダメ”だ」
「……」


 意味不明な言葉を最後に、教室から連れ出される私。

 無言のままの武内先生はひたすら歩き続け、辿り着いた先は事務室前だった。

 そこに立っている、見覚えのある人。


「お、お姉ちゃんっ!!」
「……」


 中学校の制服を着た妹と弟だった。
 2人は私が卒業した中学校に通う2年と1年。

 今日も普通なら学校だと思うのだが。
 何故ここにいるのだろうか。


「な……何。学校まで押し掛けて。帰りなよ」
「違う、お姉ちゃん聞いて!! お父さんとお母さんがね、車で事故に遭ってね……それでね、それでね……っ」


 ぶわっと涙を溢れさせ、言葉が継げなくなる妹。
 その様子を無言で見つめていると、弟も口を開く。


「2人とも重傷で、病院に今いる。さっき、おばあちゃんが病院の先生と話してくれたんだけど……長くないって」
「…………」
「でね、姉ちゃんにも来てもらえっておばあちゃんに言われて……。でも今住んでいる家も分からないし。それで、学校まで来た。今後のことを話すには俺らじゃまだ無理だから、姉ちゃんと話すって」


 突然の話に、理解が追いつかない。

 震える身体を抑えながらチラッと武内先生の顔を見ると、小さく頷いて「決めたら良い」と呟いた。


「…………」


 散々私のことを放置して、挙句の果てに家から追い出した両親。

 そんな両親の行動を誰よりも近くで見ていた、妹と弟。

 関係無いおばあちゃんからの呼び出しとはいえ、今更……そんな都合の良い話、受け入れられる訳がない。



「……柊木さん、大丈夫?」
「……武内先生。全然大丈夫じゃないです」


 様々な感情が胸の中で湧き上がり、自分の本当の思いというものが見つからない。

 大方、妹と弟の面倒でも見るよう言われるのだろう。
 散々見て見ぬフリをしてきた2人。
 私が1人で除け者にされているところ、笑っていた……妹と弟。


「……おばあちゃんに伝えといて。柊木家には関わらないと。……大体、あんたら2人もよくここまで来れたよね。見て見ぬフリをして、笑っていたくせに……っ!!」
「……」


 酷い姉だ。
 そう思いつつ、表情は崩さない。

 私の言葉を聞いた妹と弟は、2人ともが涙を流して大泣きをし始めた。

 さすがに胸が痛む。
 けれど、この2人も私に同じことをしてきた。



 それに、こんなこと誰にも言えないけれど。



 私、両親が事故に遭ったと聞いて真っ先に、何故かホッとしたんだ。