「生徒の皆さん、おはようございます! この晴れた日に第53回桜川高等学校の文化祭が盛大に執り行われます! いぇーいッ!!」

 どうしました、そのテンション。
 冷静にそう突っ込みたくなるくらいハイテンションな生徒会長。他の生徒も若干引き気味だ。


 そんな今日は文化祭。
 クラスの出し物や部活動での製作など、他の生徒たちが沢山頑張っていたことは知っているけれど。その一切に私は関わっていない。

 故に、別に楽しみでも何でもないけれど、武内先生と一緒にステージ発表くらいは見学をすることにした。

 椅子に座っている生徒たちよりも更に後ろ。
 先生たちが居る場所の付近に、私の椅子を置いて座る。



「よっ、柊木」
「あ……内山先生」

 ステージ発表の合間。休憩になって近付いて来たのは、英語担当の内山涼華先生だ。『サクラ学級』にまで『今日のまとめ』を持って来てくれる内山先生とは、多少の雑談をする程度には親しくなれている。

 先生は「よっ」と声を上げながら隣にしゃがみ込んで、私の顔を覗き込んできた。

「お前……武内から聞いたぞ。あの有名な『Crazy(クレイジー) Journey(ジャーニー)』も知らんくらい、音楽には興味が無いんだな」
「それ、禁句じゃないんですか」
「はぁ? 何だそれ。……さては、先生のことも武内から聞いているな?」
「はい、聞きました」

 小さく頷くと、先生はわざとらしく両手を広げて溜息をついた。その様子が面白くて笑っていると、小走りで武内先生が駆け寄って来る。

 休憩時間で、他の生徒から見つからないように隠してくれているのだろうか。内山先生は武内先生に立ち位置を指定して、不自然な場所に立たせた。

「ていうか内山先生。うちの柊木さんに構わないでよ」
「何だぁそれ。柊木はお前だけの生徒じゃねぇんだ。先生にも構わせろ!」
「内山先生は圧が凄いから駄目だよ」
「何だ、失礼だな。……っあ、おい。早川!! お前も来い!!」
「えっ!?」

 偶然近くを歩いていた数学担当の早川先生まで巻き込んで、私の周りには先生3人。内山先生は早川先生にも立ち位置を指定していた。

「内山先生は強引ですね。そして圧が凄いです」
「はぁ? 早川、お前までそう言うのか……! 何なんだよ、武内も早川も!!」
「事実だからね」
「お前ら……未来の世界的ギタリストに向かってそんな口を利いたこと、絶対に後悔させてやるからなーっ!」
「誰が世界的ギタリストだって?」

 先生3人の会話がギャグみたいで何だか面白い。ふふっと小さく笑っていると、3人ともが私の方を見て優しく微笑んでいた。

 やっぱり、高校の先生って優しい。
 そして、面白いし楽しい。

 ひとりぼっちの私を囲んでくれる人がいるなんて。
 中学時代の私には本当に考えられなかった。

 それが例え、立場の違う教師でも。
 本当に嬉しくて、心が満たされる。


「……武内先生」
「ん、どした?」
「沢山の先生に構って貰えて嬉しいです。ありがとうございます」

 そう言って武内先生に向かって微笑んでみると、何故か先生は泣きそうな表情で唇を噛み締めていた。「え、泣いてんの?」と内山先生が半笑いで声を掛けるも、武内先生は反応をしない。早川先生も不思議そうに首を傾げていると、「柊木さん、こちらこそありがとうだよ」と呟いて、私の頭をわしゃわしゃと盛大に撫でてくれた。