力の抜けた体に喝を入れ、私はどうにか頑張って『サクラ学級』に戻った。そして1人黙々とお弁当の続きを食べていると、“いつも通り”の様子で武内先生が戻って来た。

「いやぁ、ごめんね。柊木さん」
「……」

 何もなかったかのように席に座り、先生もお弁当の続きを食べ始める。ニコニコとしているけれど、どこか引きつっている笑顔が心苦しい。

「……先生、ごめんなさい」
「え、何が?」
「……見てました。うちの親が……本当にごめんなさい」
「……」

 手に持っていた箸を置いてゆっくりと俯く。

 親が学校を辞めろと言っているんだから。ここは素直に辞めたら良い。そうすれば、誰にも迷惑を掛けなくて済むのだから。

 そう思って、震える声で想いを言葉にする。

「私、学校辞めます」
「……えっ?」
「元々教室に通えなくなった時、辞めようかと考えていたのですから。何も問題ありません」

 精一杯強がった口調。

 しかしそれを言葉にすることによって、流れ落ち始める涙。矛盾している自分自身の言動に、思わず笑いも零れた。笑い泣きをしている、汚い自分の顔が想像できる。

「君は、本当に学校を辞めたいの?」
「……」
「僕にはそう見えないけど」
「……辞めたくない。辞めたくないよ。家に居場所なんて無いのに。学校辞めたら……私はもう、居場所が無い……」


 公立高校は学費が無償とは言え、費用が一切かからないわけではない。バイトもしていない私は当然、自分で払うこともできない。親のお陰で通える学校。そんな親が辞めろと言うのならば、辞めるしか選択肢はない。

 だって
 自力じゃどうしようもないんだから。


「……」


 言葉を継げなくなり、そっと窓の外に目を向けた。

 青空に浮かぶ白い雲。空飛ぶあの鳥は何を思い、今を生きているのか……。


「……君の親は間違っている。別に学校を辞める必要なんてない。……って言いたいところだけど、親のおかげで学校に通えるからね」
「……うん」
「でも、間違っているのは事実だ。何か……何か良い方法があると思う。辞めなくて良い何かが」
「……」

 とはいえ思いつかないけれど……と言って、武内先生は目を伏せた。

 未成年のうちは、どうにもできない。

 悔しいけど
 やっぱり今の私には、親が居なきゃ……何も行動を起こせない。