「ウララさま、ご案内いたします」

 アイルーに続いて、応接間を出て廊下を歩く。
 連れていかれたのは、応接間の倍ほどの広さのある部屋だった。ソファやテーブルだけではなく鏡台や書き物机もあるので、自分の部屋だろうか。ウララがわくわくしながら、「ここが私のお部屋ですか」と尋ねると、「違います」と冷たく返された。

「王太子妃になろうお方のお部屋がこんな小さいわけないでしょう」
「私には十分すぎるくらいですけれど」
「……はい?」
「え?」

 実家で与えられていたのはほぼ物置同然の部屋で、日当たりがわるくて日中でも本を読むのに苦労した。それと比べると、信じられないほどの好待遇。
 しかし、アイルーにはなにを言っているのか伝わらなかったようで、見下ろされた顔には眉間にしわが寄っていた。

「ここはただの控室です。ひと心地ついたら、こちらのドレスに着替えてください」

 アイルーが指さした先には、淡い黄色のドレスが飾られていた。プリンセスラインで、全体には花を模した刺繍がふんだんにちりばめられており、まるで花の妖精のような装いだ。デコルテ部分は大きく開いているものの、繊細で華美なデザインだから全体的に上品なイメージを抱く。
 思わず、ウララの口からは感嘆のため息が漏れた。

「あ、あの、とても立派なドレスですわね。私にはもったいないほどで」
「殿下がお選びになりました。ウララさまに似合うのでは、と」
「まあ、ありがとうございます。でも、殿下にお目見えするのは本日が初めてだったと思うのですが……」

 事前に肖像画でも確認していたのだろうかと一瞬思ったが、実家でそんなものを描いてもらった記憶はない。
 思わずアイルーを見上げると、なにを言っているのだと言わんばかりに凝視された。

「ウララさまには、殿下のパートナーとして夜会に出席していただきます。なにか気になることがあれば、そのとき殿下ご本人に聞いてください」