「なんでしょうか」
「さっき贈った花冠なんだけど。フローラ王国のとある風習を知らない?」

 ウララはうなずく。

「ああ、やっぱり。そんな感じがしたんだよな」
「有名な風習なのですか」
「うーん、どうなんだろう。曾祖父の時代までは貴族から市井の人々までみんな知っていたそうだけれど、いまはもう知らない人も多いんじゃないかな。僕も幼いころに祖母から伝え聞いたぐらいだし」

 どんな風習なのだろうかとウララが気になっていると、エーデルはフォークを置き、一呼吸おいて話しはじめた。
 彼曰く、フローラ王国には、自分が慕っている人を思い浮かべながら花飾りをつくって、その相手に贈る習わしがあるらしい。植物の命を借りて、相手が健やかに生きられることを願う、そういう意味が込められているとか。花々や木々を尊ぶ龍神信仰が根付くフローラ王国らしい風習だ。

「じゃあ、これは……」

 ウララは自分の頭にのる花冠の存在を思い出し、そろりとふれた。

「そう、僕がつくった。昔、祖母に教えてもらったのを思い出しながらだったんだけど、うまくできてよかったよ。あ、ちなみに、つくるものはなんでもいいんだ。定番は花冠なんだけど、コサージュだったり髪飾りだったり。せっかくなら大きくてかわいい花冠がいいかなって思ってこれにしたんだけど……」

 エーデルは、ウララの頭上の花冠に目をやって、はにかんだ。
 二人の間をぬるい風が通り抜け、花の香りが舞う。

「僕は、きみと会える日を心待ちにしていたんだ。これをつくる間、きみはいったいどんな顔で僕と話をしてくれるのだろうかと考えていたよ。笑いかけてもらえるのか、怯えられてしまうのか。少なくとも、後者ではなさそうで安心している」
「あの、殿下は私のことをご存じだったのでしょうか」
「ああ、まあ。うん」