二人で並んでバルコニーのベンチに腰を下ろす。
ベンチは広間とバルコニーを隔てるガラスを背に置かれているので、座ると夜景が一望できる。立っているときにはわからなかったが、バルコニーの下はちょうど庭園が広がっているようで、ときどき吹く風が運ぶ花の香りは庭園のもののようだった。
エーデルが給仕に声をかけ、食べものと飲みものを持ってきてもらった。ウララはサイドテーブルに並んでいる食べものを見て、さっきから食べたくて仕方がなかったチョコレートケーキにまず手を伸ばす。
「食事じゃなくていいの?」
「あ……」
エーデルと目が合って、のばした手が宙で固まる。あまりにも欲望に忠実すぎる自分のふるまいに、また顔が熱くなる。
「甘いものが好きなんです」と正直に白状すると、「へえ」とエーデルは微笑んだ。
「じゃあ僕も同じものをいただこうかな」
チョコレートケーキはいままで食べたどのケーキよりもなめらかで甘く、上品な味がした。
きのうまでは屋敷の暗くて狭い部屋で一人で冷たい食事をとっていたのに、今日は王子と並んでチョコレートケーキを食べているなんて。しかも自分はこの人と婚約したらしい。
あらためて自分の状況を顧みると、現実感のなさにウララは笑いそうになる。足元はおぼつかないし、胃がふわふわと浮いているようだ。
――どんなおとぎ話だって、こんな急で都合のいい展開にはならないわ。
でもたとえ一夜限りの夢だとしても、いま隣に座っているのは花の王子で間違いがなかった。
ウララが別のケーキに手を伸ばそうとしたところで、「そういえば」とエーデルが口を開いた。