「仲がよろしいのですね」
「そう見えたかい?」
「ええ」

 うなずくと、エーデルは苦笑した。

「ククルスとは同じ学院に通っていて、それなりに気が合うからよく一緒の時間をすごしていたんだ。ご覧のとおり裏表がない性格なんだが、その、いわゆる女性との噂が絶えないやつで……エイ家も頭を抱えていると聞くが、まさか人の婚約者にも気軽に話しかけてくるとは」
「なるほど……」

 たしかにククルスは眉目秀麗な男だった。エーデルよりはひとまわりほど小柄だったが、すっと伸びた背筋としなやかで長い手足は、自信と気品に溢れていた。
 極めつけは甘い顔。あの顔に人懐っこそうに微笑まれて、悪い気のする人はいないだろう。冷涼な容姿のエーデルとは対照的で、二人が並ぶと絵になる。学院時代はさぞ注目の的だったのではないだろうか。
 二人の学院時代を想像していると、エーデルに「ウララ嬢?」と問われる。
 ぱっと顔を上げると、思ったよりも近くにエーデルの顔があった。あとずさりたいが、これ以上うしろに下がると、屋根のないスペースに出てしまう。
 他人に気づかわしげな瞳を向けられると、どうにもくすぐったい。困ったウララはうつむいた。

「やっぱり疲れただろう。無理言ってすまない」
「私は大丈夫です。むしろ」

 殿下のほうがお疲れではないでしょうか。
 そう続けようと思ったタイミングで、ちょうどウララの腹が鳴った。月明かりに照らされた静寂なバルコニーに、その音が響く。

「あ」

 すこしの間のあと、エーデルは吹きだした。
 ウララは恥ずかしさのあまり、腹を押さえてうずくまった。きっと顔が真っ赤になっているに違いない。
 あわただしい出発でろくに食事をしてこなかったうえに、緊張してきのうの夜からなにも食べていないのだから、たしかに空腹ではあった。だけどさっきまでエーデルの隣で微笑んでいるので精一杯だったから、食べもののことはすっかり忘れていたのだ。
 さっきテーブルに並んだチョコレートケーキやフルーツケーキを見て、おいしそうだと思ってしまったのがいけなかった。油断した。ウララは甘いものに目がない。さらには夜風に当たって冷静さを取り戻したことで、身体が急に空腹を思い出したのだ。

 ――いままであんなに豪華なデザートを食べたことがなかったんだもの! 人の目を気にして遠慮したのがいけなかったんだわ!

「ごめんなさい。あんまりこういう場所に慣れていなくて……なにかいただけばよかったですわ」
「せっかくだし、ここですこしゆっくりしていこうか」