「どうだか。おまえの悪癖は王城まで轟いているんだぞ。いまさらしらばっくれても無駄だ」
「悪癖? 俺はただ美しい人とお話しするのが好きなだけなんです。夜会に飽きてバルコニーに出てみたら、ちょうど今日一番の美人がいたから声をかけたまで、ね」

 ククルスはウララを振り返ると、ウィンクをした。
「ね」と言われても、なんと返事をすればよいのかわからない。あいまいに微笑むと、エーデルがさらにククルスににじりよった。

「もー、なんですか、殿下。俺だって、いままでずっと婚約者がいなかった『花の王子』を仕留めた人が気になっているんですよ。好奇心半分、下心半分で近づいたんだけど、素直すぎてちょっと心配ですね」
「下心、だと……?」

 いまにも掴みかかりそうな勢いでエーデルはそう言った。ウララからは彼の表情が見えないけど、どうやら話の通じないククルスに怒っている様子だ。

「おお、怖い怖い。冗談だって、怒るなよ。今日のおまえは一段と面倒くさいなぁ」

 ククルスはそう言って、わざとらしく肩をすくめてみせた。
 王子相手にずいぶん軽口を叩く男にウララは驚くも、エーデルはとくに気にするそぶりを見せない。年齢も近そうに見えるし、いまは一触即発な雰囲気だがべつに本気で怒っているわけでもなさそうだから、なにかかかわりがあるのだろうか。
 男は「じゃあね、お嬢さん」と手を振って去っていった。

「いまの方は……」
「ククルス・エイ。南区のエイ公爵家の嫡男だ。あいつ、名乗ってもいなかったのか」

 エーデルは信じられないと言わんばかりに肩を落とし、乱れた髪をかきあげた。