背格好はエーデルには見えない。また無遠慮に身元を詮索されるのかと思って身体を固くしていると、男は隣に立つなり「具合でもわるいのかい」と言った。
 軽く微笑む顔つきからは、詮索や侮蔑の意は感じられない。単純に一人でバルコニーにたたずむ人間を心配してくれているようだった。
 ウララは内心ほっとして、首をふった。

「すこし人酔いしてしまいまして」
「一人? 連れがいるなら呼んでこようか」
「ご心配ありがとうございます。ちょっと涼みたかっただけなので、呼んでいただかなくて大丈夫ですわ」

 男は「そう」とうなずくと、ウララのことをじっと眺めた。
 ふたたびバルコニーに沈黙が訪れる。
 隣に立つ男の明るいシルバーの髪と瞳は、夜空の下でもきらめいている。エーデルや自分と同じくらいの年齢に見えるが、まんまるの目とどちらかというと小柄な身体つきのせいで幼い印象も受ける。無遠慮に見られてもそこまでいやな気持ちにならないのは、この人懐っこい笑顔のせいだろうか。
 そんなことを考えていると、男が口を開いた。

「あんまり夜会に慣れていないように見えるけれど、パートナーに無理して連れてこられたのかい」
「いえ。たしかに慣れてはいないのですが、とてもたのしいです。いままでこんなすてきな会に参加する機会がなかったので」

 シャンデリアの下ではうまく言葉が出てこなかったのに、いまはすらすらと受け答えができている自分に驚く。

「はじめて? 失礼だけど、きみはどこかの家の令嬢だろう。それなら家の都合で一度くらいは参加したことがあるんじゃないか」
「それが、なかったんです」
「ワケありなんだ、きみ」

 男はさらりとそう言った。言葉以上の含みはなく、ウララは自然とうなずく。