窓ガラスに映る自分の姿を確認すると、頭にのせられていたのは花冠のようだった。よく見えないけれど、黄色や橙、淡いピンクの花々で編まれているように見える。

「……これは?」
「花冠。似合うかなって思って」

 昔なにかのパレードで見た王妃も、似たような装いをしていた記憶がある。これがフローラ王国の王族の女性の正装なのだろうか。引きこもってばかりいたせいでいまいち常識や慣習に疎いウララは、いまいちピンとこないままお礼を述べた。

「ありがとうございます」

 もう一度、ちらりと窓ガラスを見ると、おろしたままのウェーブにした髪型に華やかな花冠がよく似合っているように見えた。時間をかけたわりにはずいぶんシンプルな髪型だと思ったが、花冠を引き立たせるためだったのか、とウララは合点する。
 夜会なのだからとんでもなく複雑な髪型にされるのだと覚悟していたのだが、できあがった姿はゆるく巻いて全体に小さな真珠をつけるのみ。化粧をしてもらっているとはいえ素朴な顔立ちなのだから、ドレスに負けないか心配していたが、たしかに花冠をつけるのであれば髪型はシンプルなほうが似合う。

 ――素敵なドレスだけじゃなくて花冠までいただいてしまって。まるでおとぎ話の王子さまみたいだわ……

 でも、自分は身代わり。勘違いしてはいけない。
 顔がゆるまないように両頬を叩くと、きょとんとした顔のエーデルと目が合う。

「王子さまみたい、って僕のこと? 光栄だな」
「あ、え……声に出てましたか」

 おずおずと尋ねると、余裕たっぷりにうなずかれる。
 ウララは呻いた。穴があったら入りたい。
 脳内がお花畑なのがばれてしまったことに一人悶絶していると、エーデルはおもしろいものを見たと言わんばかりに笑い声を上げた。その表情に、先ほどまでの固さはない。

「それじゃあ、ウララ嬢はお姫さまか」
「え?」

 見上げると、彼はうっとりするほど優雅に微笑んでいた。
 そのしぐさや表情がほんとうにおとぎ話の王子さまみたいで、ウララの胸は高鳴る。

「お手をどうぞ、姫」