「あ、いえ。大丈夫です」
「婚約者として紹介させてもらうけれど、きみはみんなの前でなにかしゃべる必要はないから。今日は隣にいてくれればいい」
 
 婚約者として紹介させてもらう。エーデルが何気なく言い放った言葉にウララは内心驚く。しかし、会ったばかりの人間ですが大丈夫でしょうか、とは聞くことができず、黙ってうなずく。
 隣にいてくれればいいと言われたものの、最低限は婚約者らしいふるまいをしなければいけない。「婚約者らしいふるまい」とはいったいどんなものなのだろうかと、ウララは思案していた。身代わりになるまでの二年間は穏やかにすごしたいとは思っていたが、急な話だったこともあり、具体的なことはあまり深く考えずに来てしまった。
 
 ――でも、紹介しようと思っていただけている時点で、ひとまず合格ということでいいのかしら。

 エーデルはウララとの婚約を望んでいると手紙に書かれていたが、もしほんとうに二年後に身代わりされるのであれば、結婚までたどり着くことはないだろう。とはいえ、身代わりにできるかもしれない貴重な人材をそうやすやすと手放すことなどしたくないだろうから、王城での最低限の生活は保障されていると考えて間違いない。
 であれば、やはりこの二年間の王城生活は自分なりに楽しまなければ。どうせ実家に戻ってもあのさんざんな生活が待っているだけだし、もとより自分には行く当てなどないのだから。
 あと、シスの今後の人生に不安がないようにしてあげなければいけない。自分にできることはそのくらいだ。

 歩きながらそんなことを考えていると、ふわりと頭上になにかがのせられた。
 驚いて見上げると、「贈りもの」と微笑まれる。