それから夜会まではあっという間だった。シスと王城の侍女たちに身体中を磨き上げられてドレスに着替えたウララは、有無を言わせず鏡台まで連れていかれると、いまは髪や顔を長時間かけて飾りつけられている。

「まあ……」

 鏡台に映る自分の姿は、ほんとうに自分かと疑うほどの変貌ぶりだった。
 背は高いものの華奢なせいで迫力はなく、顔のつくりも素朴、おまけに青みがかった黒髪と翡翠色の瞳という地味な容姿のウララだが、化粧とドレスおかげで絢爛たる雰囲気に仕上がっている。
 夜会やお茶会の類に参加したことのないウララにとって、こんな経験ははじめてのことだった。いつもは動きやすい質素なワンピースを着て、シスに簡単にメイクをしてもらうだけだから、女たちの手によって自分が変えられていくのが真新しくて仕方がない。
 これならあの美丈夫の隣に立っても悪目立ちしないだろうか。そんなことを考えていると、いつのまにか視線が下を向いていたようで、控えめに頭の位置を戻される。
 鏡に映る自分は子どもみたいに目を輝かせている。よほどものめずらしそうにしていたのか、侍女の一人に「いかがでしょうか」と尋ねられる。

「自分が自分じゃないみたいだわ。ありがとう」

 正直にそう答えると、彼女はくすりと微笑んだ。
 夢見心地で鏡を眺めていると、うしろに映るシスがなぜか満足げに鼻を鳴らした。目が合うと、「お嬢さまは美しいんですよ!」と声高に宣言される。

「そ、そうかしら? シスもありがとうね」
「とんでもございません! いつもの控えめなご衣装やお化粧でもお嬢さまの素材の美しさは光っていますが、やはりこういう華やかなドレスに身を包んでこそ引き立つというものです。まったく、控えめなのはお嬢さまのいいところですが、侍女のやりがいを奪わないでいただきたいものです!」

 まだ幼いのにまじめにきびきびと働くシスを頼もしく思っていたが、知らないところで彼女のやりがいを奪っていただなんて。こんなに饒舌に語るシスを見るのははじめてだったから、ウララは驚いて言葉が出ない。
 まわりの侍女たちはウララやシスよりも格段に大人に見える。彼女たちは手を動かし続けながらも、二人の言い合いを微笑ましいものを見るような目で見守っていた。


           ***


「お待たせしました」

 準備が終わり、エーデルが待つ部屋の前まで向かうと、ちょうど彼が部屋から出てきたところだった。
 待たせてしまったことを詫びると、彼は目をまるくしたままウララを上から下まで眺めた。