デパートに行くと一階には焼きそばを焼いているおばちゃんたちが居た。 子供たちは親が買い物をしている間、焼きそばを食べてたんだ。
そこにはいろんなジュースも置いてあった。 目の前でおばちゃんたちが焼いてくれるんだよね。
それを見ながらジュースを飲む。 少し焦げたソース焼きそばだったね。
 鉄板でさ、ジュージュー 美味そうな音を立てて焼くんだ。 いろいろと話し掛けてくれたっけ。
そうかと思えば上の階にはレストランが入っていた。 子供の目当てはお子様ランチだった。
 チキンライスとナポリタン、それに唐揚げとかハンバーグとか子供が好きそうなメニューが合わせ盛られていた。
しかもチキンライスは山形になっていて国旗が立てられていたよね。 たまにはおもちゃがおまけで付いてたりして。

 中学生になるとなぜかお子様ランチは食べなくなった。 不思議だった。
その頃になるとウォークマンが大流行したんだよなあ。 ヘッドフォンでカセットテープを聞きながら動き回れる当時としては優れ物。
テープレコーダーも少しずつ小型化していくんだ。 最初の頃はどでかいやつしか無くてね。
 しかもほとんどがワンスピーカー。 ツースピーカーは珍しかった。
高校生になるとダブルレコーダーが出てくる。 2台のテープレコーダーがくっ付いたような、、、。
それでダビングが簡単に出来るようになったんだ。 すごいなって思った。
 その頃にはさ、何処の誰と文通してるとか、あいつとこいつがくっ付いてるとかクラスメートとも言い合ったもんだ。 もちろん、俺だって文通はしたよ。
でもなんか面白くなくて長続きしなかったな。 涼子と話してるほうがましだった。
 もちろん、まだまだ好きとか嫌いとかいう感情は無かったよ。 幼馴染なんだし、ずっと遊んでたんだから。
それがさ、体育の時間だったかな、、、泳いでる姿を見たらキュンとなっちまったんだ。 どうかしてるなって思った。
 プールサイドに上がった涼子を見てさらにキュンとなっちまった。 女らしいなって思ったんだ。
今から思えばあれは恋心だったのかもな。 思えば涼子以外にキュンとした女は居なかったんだ。
 冷めてたわけじゃないんだけど、なんか違うなって思ってた。

 そんなことを考えながら今日もまた喫茶店でコーヒーを飲んでいる。 うるさいわけでもなく、根暗なわけでもない。
熱いコーヒーを飲みながら壁に飾られた古いポスターを眺めている。 そうすると嫌でも80年代のことを思い出してしまう。
 女子大生 二人のユニット アミンが出てきたのは1981年。 寺尾聡が大ブレークした年だね。
90年代に入って先輩とライブを見に行ったことが有る。 満員ではなかったけれど、、、。
 そして80年代と言えばやっぱり松田聖子だろう。 あれだけのぶりっ子はもう出ないだろうな。
俺は20代の聖子はあんまり好きじゃない。 アルバムの中には好きな歌も有るけれど。
 どうもね『野ばらのエチュード』以後のぶりっ子ソングは好きになれなくて。
そして近藤真彦。 あの頃の田野近は強烈だったなあ。
歌の近藤、ダンスの田原、そして野村、、、。 何ともアンバランスなんだけどさ。
でも野村義男はアニメタルで芽を出すよね。 ギター 上手かったんだ。
 そして俺たちが熱狂したのが伊藤つかさ。 あんな可愛い子が恥ずかしそうに歌ってるんだ 燃えちゃうよ。
つかさフィーバーもすごかったなあ。 気付いたら消えてたけど。
 いろんなグループも出てきた。 ヴィーナス、サリー、アラジン、横浜銀蠅、、、。
中でも最強だったのがチェッカーズ。 藤井フミヤは彼氏ナンバーワンだったよな。
正直、俺たちは負けたって思った。 悔しかったなあ。
 いろんなアイドルが出てきたのもこの時代だ。 荻野目洋子、南野陽子、石川秀美、菊池桃子、斉藤由貴、中山美穂、酒井法子、、、。
そしてアイドルが主演する様々なドラマが生まれた。
 『毎度お騒がせします。』 『スケバン刑事』 『セーラー服改革同盟』などなど、、、。
いやいや、どれもこれも嵌ったよなあ。

 おじさんがドアを開けて入ってきた。 マスターと何か話している。
「そうなんだよ。 純子が熱を出しちゃってさ、、、。』 「そんなに嵌ってるのか?」
「リカちゃんなんて嵌り出したら止まらないらしいね。」 「それはそれで大変だなあ。」
 確かにそうだろうなあ。 俺の友達でプラレールに嵌っているやつも居るが、これはこれで止められないらしいから。
俺だって興味が無いわけじゃない。 でも手を出すと止められないなと思ったから買ってないだけだ。
 何度か友達の家に遊びに行ったが、行くたびにコースが大きくなっていて車両が増えている。
(いったい、どれくらい掛けてるんだろう?)と思って聞いてみたら本人でも分からないって言ってた。 そうだろうなあ。
 貨車に在来線、私鉄にjr、新幹線に特急まで有るんだもん。 数十万単位だよなあ。
ぼんやりと二杯目のコーヒーを飲んでいる。 いつものことだからマスターも気にはしていない。
 50を過ぎて冒険を始めたおっさんだ。 もっと早く冒険したかったな。
青い空が広がっている。 あの向こうには何が有るんだろう?
 涼子の卒業式の日、「これで最後だから、、、。」って教室で歌ってくれた歌がある。
ハイファイセットの『卒業写真』だ。 この歌を歌う涼子を今も覚えている。
 ギターを弾きながらどっか遠くを見ているような眼で歌うんだ。 誰に歌ってたんだろうね?
教室には俺と数人の友達が居た。 歌い終わった涼子は全てが終わったような顔で教室を出て行った。
 その時にギターを貰ったんだ。 大学じゃ弾かないからって。
そして俺も3年生になった。 その年、初めて野球部が県大会に出たんだっけな。
 万年fクラスだって言われていた野球部がだぜ。 それから15年経ってやっと甲子園に出たんだ。
あの夏はフィーバーだったな。 甲子園で勝ったような騒ぎだった。
 マスターは何処からかマンドリンを持ち出してきた。 カウンター横の椅子に座ってポロリポロリと弾いている。
あの音は何でこんなにいいんだろう? 弦なんて弾かない俺でも癒されてしまう。
タイトルすら知らないのに聞いていると知ってる気になる。 ボーっと聞いていると時間すら忘れてしまう。
 俺はまた現実に戻されてしまった。 涼子が居なくなって30年が過ぎていることを思い出したんだ。
寂しくなりそうだったから金を払って店を出る。 空には白い雲がポッカリと浮かんでいた。