あれは高校三年の時だった。 進路に悩んでいた俺は学校帰りに橋の上から川を覗いていた。
大学に進むべきか、就職するべきか、、、。 両親は離婚していて母親は昼も夜も働いていた。
 そんな中でも母親は俺に言ったんだ。 「しっかり勉強して世の中のために働きなさい。」って。
それでも俺は決められなくて毎日、川を覗いていた。 死ねたら楽だろうなとも考えていた。

 そんな時だよ。 前から好きだった先輩が大学で行き詰って自殺したのは、、、。
その知らせを聞いた時、俺は学校から慌てて病院へ飛び込んで行った。 先輩はベッドに寝かされていた。
「顔は見ない方がいい。」 誰もがそう言った。 でも俺は信じられなくて顔を見たんだ。
 この世の物とは思えないくらいにぐちゃぐちゃだった。 飛び降りたんだからしょうがない。
先輩 木村涼子は幼馴染の一人でずーーーっと近所に住んでたんだ。
今でも忘れられない俺の初恋の人だ。 その人が飛び降りて死んでしまった。
それで俺は就職することを決めたんだ。 相手は地方銀行さ。
 涼子のことを忘れたくて必死になって働いた。 でも今から思えばそれは無駄だった。
だって今でもこうして思い出すんだからね。 涼子はギターを弾いていた。
 高校でも教室にギターを持ち込んで昼休みになるとミニライブをやってたっけ。 デビューするんじゃないかって噂だったよね。
俺もよく聞かせてもらった。 一緒に歌ったことも有る。
 そんな先輩が自殺したんだぜ。 信じられなかったよ。
それから20年30年経っても変わらずに覚えている。 そう、形見に貰ったギターもそのままだ。
今も物置の隅に眠っている。 今度出してやろうか。
 コーヒーを飲みながら涼子のことを思い出すんだ。 後で結婚したのは実は涼子の妹だ。
何て言う皮肉なんだろうねえ? 時のいたずらか。