「……どうかな」

 3分後、渡されたハンカチは新品のように綺麗になっていた。

「うわあ凄い!ありがとう!」

 もはや落としたことがラッキーだったように思えてくる。

「きっとアイスクマも喜んでるよ!」

 ──あ、つい流れで変なことを言ってしまった。前にもこういうことを言って、クラスメイトに引かれたことがある。
 だが太陽は変とは思わないようだった。

「それなら良かった」

 安心したように笑った。初めてちゃんと見る笑顔だった。
 ──良い。不覚にもそう思ってしまい、誤魔化すように水姫は慌てて手を振る。

「そ、それじゃあこれで」

「あっ、うん」

 手を振り返す太陽は戸惑った様子だった。
 別れが唐突すぎたか。どうせ同じ教室に戻るのに、待たずに先に行くのは失礼だったか。モヤモヤしつつも引き返せず、早足で廊下を進む。
 本当に自分は小心者だ。だから今後二度と関わりがなくても、変に思われても──人気者と共通点があった、皆が知らない面を知ることができた、それだけで水姫は満足だった。