ハンカチを踏まれた。『アイスクマ』というキャラクターもののお気に入りのハンカチだった。
青井水姫がそれを廊下に落とし、拾おうとした時、向こうから走ってきた男子に思いきり踏まれた。上靴の跡がしっかりついた。どうやら鬼ごっこをしているらしく、その男子が気付かず走り去った直後、もう一人鬼役の男子が走ってきた。
「おい待てよ!お前早すぎだって!」
騒ぎながら、そいつもハンカチを踏んでいった。待ってほしいのはこちらなのだが。
いかにもチャラそうな金髪、開けたYシャツの襟、金のネックレス。
同じクラスの大野太陽だ。といっても一切関わったことがないのでよく知らない。ただ騒がしい人たちとつるんでいて、毎日呑気そうだなという印象しかない。
大好きなアイスクマがぺしゃんこに。しかも限定商品だったのに。水姫は拳を握り締め、勇気を出して呼び止めた。
「あ、あの!私のハンカチ踏んだよ!」
「え?」
太陽がきょとんと振り返る。まず無視しなかっただけマシだ。だが問題はここから。
「あ……」
ハンカチの存在に気付き、太陽は気まずそうな顔をする。数秒の沈黙。そこで謝ればよかったものを。
「何してんだよ太陽!足遅ぇな!」
遠くからさっきの男子に煽られて、太陽はそっちに反応した。
「お、おい今なんつった!?」
水姫に背を向けて走り去っていく。
──やっぱりこうなった。水姫は遠ざかっていく背中に向かって『転べ』と念を送った。
青井水姫がそれを廊下に落とし、拾おうとした時、向こうから走ってきた男子に思いきり踏まれた。上靴の跡がしっかりついた。どうやら鬼ごっこをしているらしく、その男子が気付かず走り去った直後、もう一人鬼役の男子が走ってきた。
「おい待てよ!お前早すぎだって!」
騒ぎながら、そいつもハンカチを踏んでいった。待ってほしいのはこちらなのだが。
いかにもチャラそうな金髪、開けたYシャツの襟、金のネックレス。
同じクラスの大野太陽だ。といっても一切関わったことがないのでよく知らない。ただ騒がしい人たちとつるんでいて、毎日呑気そうだなという印象しかない。
大好きなアイスクマがぺしゃんこに。しかも限定商品だったのに。水姫は拳を握り締め、勇気を出して呼び止めた。
「あ、あの!私のハンカチ踏んだよ!」
「え?」
太陽がきょとんと振り返る。まず無視しなかっただけマシだ。だが問題はここから。
「あ……」
ハンカチの存在に気付き、太陽は気まずそうな顔をする。数秒の沈黙。そこで謝ればよかったものを。
「何してんだよ太陽!足遅ぇな!」
遠くからさっきの男子に煽られて、太陽はそっちに反応した。
「お、おい今なんつった!?」
水姫に背を向けて走り去っていく。
──やっぱりこうなった。水姫は遠ざかっていく背中に向かって『転べ』と念を送った。