約束通り翌日の昼に準備室に来た太陽は、なんとアイスクマではなく学校の話から入った。

「来週の調理実習楽しみだなぁ。俺らの班はハンバーグ作るんだ。青井さんの班は何作るか決まってる?」

 それは学校生活が苦じゃなくなってきている何よりもの証拠だった。確か太陽と深澤は同じ班でもあった。水姫はというと、班の皆が水姫抜きで話を進めている為、何を作るか全く分かっていない。

「まだ全然かな。それよりおとといのアイスクマ見た?」

 すぐに話題を変える。あからさますぎたかと思ったが、太陽はちゃんと食いついてきた。

「見た見た。自分を入浴剤の代わりにするの泣けたよな」

「ね〜!本当に涙滲んだもん」

 態度が変わらないことにひとまず安心した──のも束の間。

「深澤もそのイラスト見て度肝抜かれたみたいで、無事アイスクマの沼にハマってくれたよ。俺の垢もフォローしてくれてさ」

 余程友達になれたのが嬉しかったのだろう、わざとかと思うくらいその名前が出る。だとしても、人と話している時に他の人の名前を出さないでほしい。
 またしても恋愛ドラマによくあるような台詞が浮かぶ──それも、嫉妬の台詞。友達相手に嫉妬なんて、馬鹿らしい。

「そうなんだ!この調子でファンがどんどん増えて、アイスクマが国民的キャラクターになるといいね!」

 水姫はまた笑顔を張り付けた。偽るのは良くないと分かっていても、今はこうするしかできないのだ。嫉妬の方が余程良くない感情なのだから。

「そうだ、青井さんはどう解釈した?」

「えっと私はね〜」

 そこからは今まで通りアイスクマで盛り上がることができた。大丈夫、まだ大丈夫。
 でも、確実に嫌な予感はしていた。