どこまでも太陽を見習いたいところなのだが、水姫は話すのも絵を描くことも苦手だし、キャラを演じて周囲に溶け込むなんて高度なこともできるはずもない。結局ただ一方的に太陽の絵や優しさを享受しているだけだ。
 ──なんて、恒例の大袈裟な思考を巡らせながら、水姫は自分の机に突っ伏す。
 本当に大袈裟だ。太陽だって絵が好きなだけで、上手いわけではない。キャラ作りも然り、不器用なりに頑張っているだけだ。
 要するにやる気の問題だ。そこに自信が伴えば強い力を発揮する。太陽は今その状態なのだ。
 対して水姫は、やる気も自信も少ない。休日はだらだらスマホを眺めるだけだし、小学校高学年辺りから今まで、かれこれ6年くらい友達がいない。作れないというよりは、作りたいと思う気持ちが足りないのだろう。かといって特段一人が好きなわけでもない。
 じゃあ自分は一体何をしたいのだろう。本当の自分はどこにいるのだろう。
 ぐるぐる考えながら横を向いて──ぎょっとした。太陽が珍しくクラスメイトと話している。それも、水姫と話している時より楽しそうに。

「分っかる!ヘビが火の輪くぐりしたところ神作画だったよな!」

「おいおい太陽くん詳しいな!?てっきりアニメとは縁知らずの人生だと思ってたよ!」

「まさか。俺アニメないと生きていけないから」

「じゃあ『蟻地獄ハーレム』は?」

「当然履修済み。何なら原作漫画も全巻持ってる」

「うおおおヤバすぎる!!」

 クラスメイトの一部が冷たい視線を向けるが、二人は構わずはしゃぎ続けている。多分イラスト部を通じて仲良くなったのだろう。水姫は勿論そのアニメを全く知らない。
 観れば会話に混ざれるだろうか。でもヘビとか蟻とか虫は苦手だし、無理して趣味を合わせたら、それこそキャラを演じていた太陽と同じことになってしまう。
 余計なことを考えず、ここは率直に祝おう。人前で素を出せるようになって良かったね、新しい友達ができて良かったね、と──そう思うのに、水姫は意図せず周囲に混じって睨むような視線になっていた。嫌気が差し、太陽を視界から外すように再び机に突っ伏す。暗闇の中、何度も自分に言い聞かせる。
 大丈夫、昼休みになれば話せる。昨日のアイスクマも最高だった。絶対盛り上がるに違いない──

『ごめん、今日深澤くんと昼ご飯食べることになった。また明日』

 無情なLINEが期待を掻き消した。水姫はそれをしばらく無言で眺めていた。はたと我に返り、『全然大丈夫!』と返信する。尚且つ、気を遣わせないようにアイスクマが親指を立てているスタンプも付け足す。
 かなり大丈夫ではなかった。にぎやかな教室の隅で、久しぶりに一人で黙々と食べるお弁当は、大袈裟なくらい味気なかった。