そんな日々が二週間ほど続いた、ある日の日曜日。
 太陽からLIMEで『昨日買い物行ったらガチャガチャあった!やりに行こう!』との報告を受け、二人は再びショッピングモールに出向いた。お目当てのガチャガチャを前にして、二人のテンションは最高潮に達していた。

「うわー嬉しすぎる!もうできないかと!」

「俺らのアイスクマへの愛が通じたのかもな」

「へえ、大野くんもそういうこと言うんだ」

「なっ、俺を何だと思ってんの……」

「だって大野くん、前にアイスクマでテンション上がってる私を冷めた目で見てたからさ」

「いやいや、いつの話……」

「『学校と違いすぎ、流石にドン引きだわ』みたいな」

「言ってないって笑 あの時は照れ隠しというか、まだ心からアイスクマへの愛を出せなかったというか……」

 もごもごと口ごもる太陽が可愛らしくて、水姫は満面の笑顔で100円玉を10枚出す。

「絶対コンプリートさせようね」

「うん、最速を目指そう」

「まあまあそう焦らずに。何が出るか楽しみ〜」

「何が出ても良いけどね。むしろいくら被っても良い」

「ちょっ、そういうこと言うと本当に被りまくる可能性が……」

 水姫の心配は杞憂に終わり、被りはたったの一回だけだった。交互にカプセルを回し、カプセルが出るごとに喜び、全5種のラバーストラップはすぐに出揃った。

「やったー!やっぱ二人でやると強いね!」

「マジでこれ最速だ!ギネスだ!」

「流石にギネスはないと思うけど笑 大野くんはこの中でどれが欲しい?」

「え、コンプリしたかったんじゃ?」

「形だけできれば十分だよ。私は何でもいいから、先に選んで」

「そっか。じゃあこれとこれと……」

 太陽はアイスクマが涙と共に流れていっているものと、四角い氷の中でコールドスリープしているものを選んだ。太陽らしいチョイスだ。
 水姫はアイスクマがかき氷にされたものと、溶けて耳がもげて丸くなっているものをGETした。これで2個ずつ。
 最後の被ったデザインは通常態のアイスクマ。これは一番欲しいやつだ。太陽も狙うようにじっと見つめている。

「これを分ければ丁度だね。お揃いになっちゃうけど大丈夫?」

「俺はいいけど、青井さんはいいの?」

「勿論。むしろ同士の証って感じで嬉しい」

 言ってから、図々しかったかなと不安になる。すると太陽は「確かに」と笑って、それを自分のリュックにつけた。学校に持っていっているのと同じリュックに。

「えっ、いいの?」

「青井さんが言ったんだよ、自分に正直になれって」

「強制はしてないけど……」

 それに人の発言に自分を委ねすぎるのもどうなのか。眉をひそめていると、太陽はおかしそうに笑った。

「大丈夫、自分で決めたことだから。青井さんにはただ、背中を押してもらっただけ」

 どうやら自分は背中を押せていたらしい。確かに最近の太陽は、今までより生き生きしている気がする。試行錯誤で頑張ってきた会話や行動が役に立てていたのなら、それほど嬉しいことはない。
 ──ただ、気がかりなこともあった。ほぼ二人だけの日常、水姫にとってはありがたいが、太陽は果たして本当にこれでいいのだろうか。
 人見知りで、騒がしい人たちと付き合うのが苦痛だったとはいえ、元々人と関わるのが好きな部分もあると思うのだ。自分以外の色んな人と楽しそうに話している太陽も見たい、そんな勝手な思いがちらつく。

「私も筆箱につけようかな」

「いいね」

「そういえばさ」

「ん?」

「大野くんって部活入らないの?」

 思い始めたら止まらなくて、唐突に聞いてしまった。

「なんで?」

「いやぁ、大野くんあれだけイラスト描いてたら、イラスト部とか良いんじゃないかなって」

「えっそんな部活あるの?」

 今まで知らなかったのか。

「あるよ、アニメとか漫画のイラストが廊下にずらりと飾ってあるよ。好きなイラスト描き放題だよ」

「マジか、楽しそう」

 断りそうだと思ったが、意外にも太陽は乗り気だった。自分を出せるようになってきたことで、共に意欲も上がっているのかもしれない。これは勧める絶好のチャンスだ。

「良いと思う!いつでも入部募集してるみたいだし、明日にでも覗いてみるのも……!」

「あーでも、そこでも俺浮きかねないしな……」

「大丈夫、きっと皆優しいよ。好きなことを貫いてる者同士、大野くんと波長が合うかもだし」

「分かった、覗くだけ覗いてみる」

 勧誘成功だ。心の中でガッツポーズしていると、太陽が顔を覗き込んできた。

「青井さんはイラスト描かないの?」

「描けないんだ、私画伯だから」

「画伯!?なら絶対入部するしかないって!」

「違う違う、とんでもなく絵が下手って意味だよ……!!」

 太陽は少し天然が入っている気がする。そこも含めて太陽の良さだ。
 今日も太陽の色んな面を見ることができた。

「それじゃそろそろ……」

 前回のようにさっさと帰ろうとして──水姫は踏み留まった。自分も太陽を見習って、変に遠慮せず自分に素直でいたいと思ったのだ。

「どこか行きたいところある?」

「うーん、特には……」

「じゃあ私、ゲームセンター行きたい」

「えっ」

 余程意外だったのか少し驚いた顔をしてから、「いいよ」と太陽は先立って歩き出した。おそらく喜んでいることが背中越しに伝わってきて、言ってみるもんだな、と水姫は自分の成長を嬉しく思った。