それからというもの、太陽はクラスで浮いた存在になった。全く話さないわけではないものの、ほとんど混ざらず、一人で突っ立っていることが多くなった。休み時間に席で本を読んでいる時もあった。
 それでも水姫は教室では関わらず、その代わり昼休みになると二人で準備室に集まった。お弁当を食べながらアイスクマの話をする。これほど楽しいことはなかった。

「昨日のアイスクマは激熱だったな。まさか地下の冷凍室に住んでたなんて」

「日光を避ければ100年生きられるんだね。でもその代わり、地上に住んでる人間の友達には永遠に会えないっていう……」

「せめて二次創作では、リモートで繋がった絵を描いておこう」

「流石神!」

「やめて、神は原作者だけだから」

「リスペクトを常に欠かさない!流石神ファン!」

「どうもどうも」

 アイスクマのイラストの更新が夜なので、翌日会った時に昨晩のイラストについて話し始めるのがお決まりになった。
 更新がない日は、例の異世界転生ヤギの小説の話もした。

「ヤギが自分が食べてしまったラブレターを魔法で生成する瞬間は感動ものだったね」

「しかもそれが実は自分宛だったっていうね。あれは胸キュンだった〜」

「あ一魔法っていいなー、俺も異世界に転生したい」

「そんな、まだ何十年も残ってるよ!諦めないで!」

「そういう青井さんはどうなの」

「私もまあ……憧れはするけど」

「一緒にトラックに轢かれたら同時に転生できんのかな」

「ちょっ物騒なことやめて!?」

 それらのやり取りは現実逃避を含んでいる為、決して学校の話はしなかったが、あの可愛い苺ちゃんが7股していると発覚した時は流石に話さずにはいられなかった。

「関わらなくて良かったね大野くん……あの時カラオケ行ってたら危なかったよ」

「いや、そもそも行く気なかったし」

「そうなの?ビッグチャンスだったのに」

「逆に青井さんが迫られたらどう?なんか怪しいなってならない?」

「それはそうかもだけど……」

「俺は最初から危ない予感してたよ」

 嘘つけ。

「それにしても、皆どんな面があるか分からないものだね」

「ほんとだよ。鬼ごっこしてたあいつだって」

「ああ、あのバネ仕込んでた人」

「家では親に敬語使ってて、一言でも逆らったら殺されるらしい」

「ええ……だからその反動であんなことになってるのかな……」

「だからといってハンカチを破っていいことにはならないけどね」

「でもなんか可哀想というか、鬼ごっこ程度に収めてるのが可愛く思えてきたかも」

「絶対嘘じゃん」

「まぁ嘘だけど」

 噂をすれば、廊下から「ギャハハハ!!今度はバズーカを仕込んでやったぜええ!!」と高笑いが聞こえてきて、二人で顔を見合わせて笑い合ったりした。