「おう、西園寺。どした」
「内山先生、少し時間下さい」
昼休みの英語科準備室。
英語担当の内山先生は基本的にこの部屋に居る。
そんな先生を訪ねて、ここ英語科準備室へやってきた。
幸い、内山先生以外の先生はいない。
俺は部屋に据え付けられているソファに腰を掛け、小さく溜息をついた。
「どした、西園寺。改まってから」
「あの……作詞の件で相談です」
そう切り出して、内山先生に思っていることを全て伝えた。
俺には作詞ができないこと。
浮かんでくる詩が全部くさいこと。
恥ずかしくて歌になんてできないこと。
俺よりも、神崎の方が向いているってこと。
全部、全部話した。
その間、内山先生はずっと真顔だった。
俺のことを馬鹿にせず、小さく頷きながら話を聞いてくれていた。
「……んー。なぁ、西園寺。お前、歌詞がくさい歌が嫌いなのか?」
「え?」
「逆を返せば、ストレートで分かりやすいだろ。お前はそういう歌が嫌いなのか?」
「……いや、嫌いというか……」
「何だ」
「……分かりません」
分からない。
俺の書いた詩に良さが見出せない。だからこそ……分からない。
「書くには書けるんだろ?」
「まぁ、書けます」
「なら良いじゃないか」
内山先生はソファから立ち上がり、デスクに向かう。
そしてその場所から“何か”を俺に投げた。
「ほれ、やるよ」
「うぉっ」
弧を描いて飛んできた物を落とさずにキャッチする。
内山先生が投げたのは、べっこう飴だった。
先生も個包装の袋を開け、飴を口に放り込む。そして「あまっ」と呟きながらノートを持ってソファに戻ってきた。
「べっこう飴だ。うだうだと無駄なこと考えずに砂糖でも食って頭休めろ。無駄なんだよ、無駄。お前が今考えていること、その一切が無駄。全て無駄。因みに泣き言を言う奴はゴミ以下だと、先生は常にそう思っている」
平然とした表情でノートを捲り始めた先生。何だかあまりにも辛辣すぎて、涙が出そう。
「そ……そこまで言わなくても良いじゃないですか!」
唇を少しだけ尖らせながら俺も個包装の袋を開けて口に放り込んだ。
口いっぱいに甘さが広がっていく。
「西園寺。お前が1年生の頃、国語の授業で詩を書いたの覚えているか」
「え……詩?」
唐突な話題に、思わず目が点になる。
1年生の頃……確かに国語の授業で詩を書いた。
今と同じように青春と恋愛をテーマにしたくさい詩を書いたことがあるんだけど、それが何故か教師投票でNo.1選ばれて文化祭の展示コーナーに展示されていたのだ。
「武内先生と話したんだ。お前の詩が1番心に刺さると」
「……」
武内先生とは、この学校の国語 兼 音楽教師。音楽繋がりで内山先生と仲が良いのは校内でも結構有名だ。
「それがどういうことか分かるか、西園寺。つまり、お前のその刺さる詩で、お前だけのソウルを見せて欲しいんだ」
「いや、意味が分かりません」
意味不明にも程があるだろ。何だよソウルって。
口の中の飴を舌で転がしながら、呆然と内山先生を眺める。
そのノート、何が書いてあるんだろう。