「へー!リアンは、まだ陛下に会ったことないんだー」

 ウィルは本の整理を手伝いながらそう言う。今日はクロードがいない。朝、早いためだろう。時々、ウィルは早起きして私とここで話すようになった。

「私の推理では陛下は……男好きなんじゃないかと思うのよっ!」

 バサバサバサッと棚の上から本が落ちてくる。

「ウィル!ちゃんと本を持っててよ。何してるのよ!?」

「ご、ごめん。いきなりとんだ推理だったからびっくりしたよ」

「なんで?普通じゃない?最初から後宮に来る気ないし、美女ぞろいなのに興味ないって……それしかないでしょう?けっこう経つのに、後宮に来ないわ、パーティーにも来ないわ……それっておかしくない?少しくらい気にならない?」

「確かに……でも僕が見る限りは、そんな男好きな感じの方では無かったよ」

「あら?そうなの?じゃあ、なんだろう?でも後宮は避けてると思うのよ」

 喋りながらも、私は本に数字を入れて、順番に並べていく。

「図書室の本がきれいに並べられたな。これって、リアンのアイデア?」

「そうよ。見やすいし探しやすいでしょ?」

 カテゴリーにわけておいた方が探す手間が省けるし、きちんと番号順に並べることで、本もなくならない。

「流石だね。どこにいてもリアンはきっと自分の持てる力を使おうとするよね」

「こんなの大したことじゃないわ。時間をかけず、本を探す手間を省きたい自分のためでもあるもの……ウィルのほうが騎士団に入って、これからどんどん活躍していくと思うわよ」

 あ、最後の方はちょっとスネ気味に聞こえたかも。ウィルはボーッとしてても勘は鋭い。きっと気づかれたと思うが、サラッと聞き返してきた。

「リアンは後宮、嫌なの?」

「うーん、3食昼寝付きで読書できて最高!……だと思うけど、なんか生きがいがないわよね。でも王妃になったり陛下の目に止まったりするくらいなら、今のほうが幸せね」

「なるほど……そっか……良かった。そんなに嫌な環境じゃないんだね。いじめられたり嫌がらせを受けたりしていないか心配だったよ……まぁ、リアンがキレて、本気だしたら後宮の損壊は免れられないだろうから、今のところ大丈夫なんだなって思ってたよ」

「ちょっと待ちなさいよ?なに人を破壊魔のように言ってるのよ!?」

 ウィルがはぁ……とため息をついた。

「思い起こせば、リアンに出会った時、水をぶっかけられ、ある日は爆風で吹っ飛ばされかけ、師匠との手合わせでは周囲を大火事にしかけ、気に入らないやつを氷の中に閉じ込め……どれだけ周りが苦労してきたか!」

「そんな小さいことをいちいち覚えてるの?」

 私の返事に小さいことかなぁとウィルの頬に一筋の汗が流れる。

「リアン、陛下が嫌なら僕と逃げる?」

「は!?……何言ってるのよ。それは死罪になるでしょ。馬鹿な末路はごめんだわ。今、私は法律の本も読み、勉強してるのよ」

「えー!ロマンがないな。だけどそういうことを迷いもなく言うのはリアンらしいよ」

 そうウィルが笑った。

「冗談には付き合えないわ。さて、またね。ウィルも騎士団頑張りなさいよー」

 ハイハイと去っていくウィル。練習風景とか見てみたい気もする。王宮の仕事とかどんなふうなのだろう?そうウィルの背中を見送りながら私は思ったのだった。

 ……まあ、興味を持っても仕方ないわ。今の私にできることは一つ!怠惰に後宮で生活するために自分の能力をフルに活用しまくって、怠惰を極めることだわ。後宮に帰りましょう。