選択肢をくれるなんて思わなかった。だって、ウィルバートは欲しいと思ったら必ず手に入れるって言っていたし、それができる王様じゃないの。実際そう言っていたのに……なぜ急にあんなこと言うのかしら?

 私はとまどい、物思いにふける。

「お嬢様、手紙がきていましたよ」

 アナベルが雑務を済ませて、部屋に帰ってきた。お盆に一通の手紙をのせてきた。

「え?誰から?」

「先生ですよ!」

 タイミングが良すぎるわねと苦笑する。まるで悩んでいることを知っているかのようだ。私とウィルのことなどお見通しなのかも。

 私とウィルが行っていた私塾の『師匠』と私達が呼ぶ先生からだ。心配するような手紙を以前、くれたけど……。

 心配なのは、きっと私のことではなかったのだと今ならわかる。師匠が気に病んでいたのは、私に正体がバレた後のウィルのことだったのだと。

 珍しく労ってくれる手紙をくれると思っていたのよね。私、怠惰に過ごしていて、ちょっとボケていたかもしれない。うるっとして出た涙、返して!

 アナベルがペーパーナイフを持ってきてくれて、不思議な顔をした。

「お嬢様?封を開けないのですか?」

 いつしか手紙の中身のチェックも無くなり、家族との面会もいつでもできるようになっていた。ウィルがそうしてくれたのは間違いない。

「開けるわよ」

 スッとペーパーナイフで開けた。

『リアンへ 欠けた月を戻せ』

 ……あれ?……えっ!?

 こ、これだけええええ!?師匠ううううう!?

「思い出した。そうだった!こんな人だったわ」
 
 私は額に手をやる。ヒントにならないヒントをくれる。師匠は決して甘くない。いつだって答えをすべて教えてはくれない。
 
 師匠が知ってるウィルの話とか!私はどうしたらいいとか!なんかアドバイスくれると思ったら、コレである。

「あら、まあ!あの先生らしいですね。謎解きですか?」

 アナベルが短すぎる一文を見て、笑う。空気の入れ替えしますねと窓を開けてくれる。太陽の光が差し込む。心地よい風が入ってくる。

 窓の所へ行き、外の景色を見たくなった。今日は良い天気だ。

 月はウィルのことだろう。欠けた月は元に戻せるの?欠けた理由はなんだったのだろう?

 ウィルは王であり続けるし、綺麗事だけでは生きていけない世界にいる。

 月は太陽の光無しでは、その光をこの世界にもたらすことは出来ない。

「お嬢様、アナベルには難しいことはわかりませんが、大事なのは、お嬢様の心ではありませんか?」

 私はハッとして顔をあげる。アナベルが僭越ながら……と付け加える。

「頭を使って考えるのもよろしいですが、心の思うまま、たまには選んでみたらいかがです?」
  
 幼い頃から私に仕えてくれて、姉妹のようなアナベルは姉のようにそう言う。

「えーっと……それで、もし私が後宮から出てもいいのかしら?縁を切られて、クラーク家を追い出されそうだけど……」

 帰ってきちゃった〜。てへっ(笑)と言った時の、両親の激怒っぷりが目に浮かぶ。

「その時はアナベルもお供します。どの選択をしようと、お嬢様についていきます」

 ありがとうと私は言った。とても心強い味方のアナベルに感謝する。一人ではきっと孤独な後宮生活だっただろう。

 私は雲一つ無い青空を見上げて、太陽の眩しさに目を細めた。