「もう一度聞く、お前が犯人だな?」

 弱々しく、私は首を横に振る。苛立つ警備兵。尋問の時間を繰り返される。まるで犯人に仕立て上げたいとばかりに執拗に。

「強情な娘だな!」

「お嬢様は本当になにもしてないのです!お許しください!」

 アナベルが涙ながらに訴える。

「あのなぁ?そのままだと死ぬぞ。まあ、死人に口ナシでいいか」
  
 腐ってるわ……と私は相手を睨みつける。その目が気に入らなかったらしい。グッと髪を掴まれる。

「なんだ?その目?」
 
 バシッと音がするほど強く頬を叩かれ床に倒れた。口の中が切れたらしく血の味が滲んだ。

「お嬢様ーーーっ!!」

 悲鳴の様な声をあげるアナベル。うるさい!と蹴飛ばされてアナベルも倒れた。

 ……くっ……こんな魔力を封じる牢。全力で吹き飛ばしてやりたい。今、殴ったやつも一緒に巻き込んで吹っ飛ばしてやりたいっ!でも……でもっ……ここでそこまでしたら、本当に罪人になってしまう。

 失いそうな意識の中で、どうにか私は正気を保とうとした。

 その時だった。

「リアン!リアーーーン!!」

 地下牢に私の名を呼ぶ声が響いた。懐かしい声。助かった……かな?時間の計算ピッタリだったかな?と考えたところで、力の入らない私の体は床に落ちまま沈むように横たわったままだ。

 ガシャンと鉄格子が鳴った。その瞬間、私を殴った男が吹っ飛んだ……え?

「おまえ……何してんだ?《《オレ》》のリアンに何をした!?」

 オレ?って……あれ?ウィルじゃなかったっけ?声音も口調もまったく違う。うっすら目を開けてみる。視界がはっきりしない。

「ぐわっ!」

 悲鳴をあげ、男が鈍い音と共に地面に伏した。……な、なにが起こってるの?

「大丈夫か!?リアン!?」

 抱きかかえてくれたのは……やはりウィルのような気がした。ウィルの匂いがするからだ。ホッとした。

「《《陛下》》!地下牢で何を……これは!?」

 ザワザワと人が集まってきた気配。あれっ?今?陛下?って言った?空耳……かな。

「今すぐ、後宮の女全員を捕らえろ!魔道士、騎士団、衛兵すべて集めよ!よくも、よくも……オレのものに手を出したな!思い知らせてやろう。それがどんなことになるのか!」

「落ち着いてください!」

 誰かがそう言うが、私を抱えた人物の怒りは激しく、黙れ!と叫び、指示をした。

「今すぐ、本物の罪人をとらえる!さっさと行け!行動を起こせ!」

 ……うん。ウィルじゃないわ。だって、ウィルはこんな性格ではない。じゃあ……誰?私はそう謎に思いながらも目を開けていられず、意識を落としてしまったのだった。