「いきなり呼び出して、そんな話ーーっ!?」

 私の絶叫とも言える声に耳栓を指で作るのは、男爵の地位を持つ父。

「そんな話とはなんだ!ありがたーい話だろう!?」

「そうよ。なかなか無いお話でしょう。レディはそんな大声ださないのよ」

 金髪碧眼で妖精のように美しいと評判の母が、父の言葉に同意する。

「お断りしますっ!陛下の花嫁候補なんてごめんよ!私は将来は王宮魔道士か官吏になるって言ったでしょ!?そのためにずーーっと勉強してきたのに!」

「リアン=クラーク、黙って親の言うことを聞け!全く、女だてらに私塾などを許すのではなかった!外に出していらぬ知恵をつけて生意気でかなわん!」

「女の幸せは結婚なのよ?王妃様になれるかもしれないなんて夢のようじゃないの」
 
 だめだ。言葉が通じない。意思疎通が難しい。

「うちには3人の娘がいるが、陛下は今年17歳になる娘をご所望と聞いてな。しかたなくだ」

「たまたま年齢が合ったから、3人の中で一番女の色気がない、性格にも難がある、あなたを渋々よ。でも見た目は悪くないですわ。わたくしによく似た美しい金の髪とそのペリドットのような目は素晴らしいのですもの。陛下を騙せるわ」

 さらっと失礼なことを言う両親。我が家はクラーク男爵家。一代で築きあげた成金貴族。そのお金で有名私塾にも行くことができ、私は勉強させてもらっていた。

「私、必ず王宮魔道士や官吏になって、出世して家名をあげてみせますから!お願いします!」

 出世払いでお願いします!と頼み込んでみる。しかし今回ばかりは私の頼みは両親に聞き流される。

「おまえのその出世払いは聞き飽きた!そもそも陛下のお側にいるだけでいいんだぞ?」

「そんな苦労して勉強しなくていいのよ。にーっこり陛下にほほえみかけなさいっ!あなたがするのは篭絡させることよ?」

 両親に私の言葉は通じない。こうなったら、家出かな……と私がチラッと脳裏に思い浮かべると、恐ろしいほどの笑みで母が言った。

「いいこと?あなたが逃げれば妹のルーシーに身代わりを頼みますからね?体の弱い2つ下の妹のことを思ったら……できないわよね?」

 ガタッと椅子から私はずり落ちかけた。どうしちゃったのよ!?妹まで引き合いに出してきて、脅してきたーーーっ!

 地位や名声やお金……それは人を容易く変えてしまうのだと気づいた。

「でもっ!この私の名を知らない街の人はいないでしょ?。近所のおばちゃんも将来が楽しみねぇって言ってるじゃない!」

 ピッと指を一本立てるお母様。実はお父様よりお母様の方が怖いのかもしれない。

「この街では?じゃあ、この国ではどうなのかしら?この国でも有名になれるのかしら?夢は大きく持ちましょうね」

 美しい母がオホホホと笑いながらそう言う。今まで、母のことは少しお馬鹿で綺麗なだけの女性と侮っていた。だが読みは甘かったかもしれない。実は猫被っていた!?

 ふるふると怒りに震える私を横目にドレスの用意をせよ!とか妃教育を3ヶ月でするわよ!とか盛り上がる両親。何だったの……私の今までの自由は?努力は?夢は!?