「結婚してる男と付き合ってたみたいでさ、いや、付き合ったっていうのは違うかな」
そんな話をはじめ、ますます意味が分からなくなった。
「妹は既婚者だからって迷ってたみたいで。でもその男に好きだ好きだ人生最後の恋だとか、ずっと一緒だとか色々うまいこと言われたみたいで。結局抱いてからひと月もしないうちに連絡も返してこなくなって。もちろん俺はそんなこと知らなくて。仕事で家空けること多かったから妹と会うこともあまりなくて。ただ、あの頃妹が心ここにないって顔してたのは覚えてる」
近藤の言いたいことが少しずつ見えてきた。
「それからは睡眠薬飲まないと眠れなくなってて、そういうことも俺は後から知って」
黙って話を聞いていたけれど、そんなふうに塞ぎ込んでしまう気持ちはとてもよく分かる。
「妹の友達ですごく親身になってくれてた子が全部教えてくれて。でもそれ知った時にはもう遅かったんだよ。人から見れば、そんな男を見抜けなかったのは自分のミスで乗り越えられなかったのも自分の心の弱さだよ。たかが男に騙されたくらいで、だよ。でも、妹からしたらそんなこと、じゃなかった。様子がおかしいのは分かってたのに、何かできることがあったんじゃないかと後悔しかない」
私は言葉を失くしていた。近藤の妹のその後を問うことなどできなかった。よくない答えが返ってきた時何も言えなくなると分かっているからだ。