私は心の中を見透かされているようで言葉を失くした。
「あ、いや、口説くとかそんなんじゃないからね。俺は恋愛感情は脳の錯覚だと思ってる変なやつだから安心して」
きっと真顔になった私に焦ったのだろう。
「はい。近藤さんから見たら私なんてすごく子供でそういう対象ではないと思うので」
「それは君から見れば俺なんてすごくおじさんでそういう対象じゃないってことかー」
近藤が笑いながら言ったので私も笑った。
「お花、嬉しかったです。本当に。ありがとうございます」
「ガーベラの花言葉は、前進だよ」
近藤はそう言って車へ乗り込んだ。

車を降りて家まで歩く。肌寒いけれど月がとても明るい夜だった。
花の匂いを嗅いでみる。強くはないがかすかに甘い匂いがした。むせ返るような金木犀の香で彼を思い出すように、ガーベラの花で近藤を思い出すのだろうか。いや、人の気持ちはそんなに簡単ではない。さゆりが望むように彼をきれいに忘れ、近藤が私に好意を持ちふたりが恋に落ちるなんてそんなに都合よく感情は動かない。
むしろそれならどんなに楽だっただろう。自分にしか分からないはずだった彼に惹かれる理由さえもう分からなくなっているというのに、捨てきれない恋心を私は持て余すばかりだ。