「そこでいいです」
「ここから近いの?」
「はい」
家まで送ると言わないのも気遣いなのだと分かった。
「ちょっと待ってて」
近藤は車から降り、トランクを開けてから戻ってきた。
「さっき急に聞いたから何も用意できなくて。と言うか連絡きてたけど仕事でちょっと確認できなくて」
言い訳のように言いながら小さな花束を出した。見たことのある花だ。黄色とピンク、赤オレンジ、赤は2本入っていて、ピンクのリボンがかかっている。
「おじさんにこんなのもらってキモいかもしれないけど」
と言いながら照れたように笑った。
私は近藤がどんな顔で花屋で花束を購入したのか想像した。
「ありがとうございます」
受け取ると、透明の包装がパリパリと音を立てた。
悠樹は女の子の誕生日に花束を渡すなんて粋なことが出来るのだろうか。こんなことが自然にできてしまう近藤はやはりとても大人の男性だと思えた。
「初めて会った時から凛ちゃん元気なかったから」
「そうですか?」
とぼけて見せたけれど、近藤との初対面でいきなり泣いてしまうという失態を犯したことは忘れていない。
「これは言ってもいいのかな」
そう言いながらも近藤は言葉にする準備をしていると思った。
「なんですか?」
「北川から聞いてたから。彼女の友達が最近元気なくって痩せて心配だって」
そうか。だからこんな不安定な私に面食らうこともなかったのだ。
「本当に心がここにないって顔してた」