「今開けるとややこしいから帰ってから開けてね。ふたりで選んだんだ」
さゆりは北川を見て言った。
「ありがとう」
もう敬語も使わなくなったけれど、北川に頭を下げた。
「そんな大層なものじゃないから」
北川は手を左右に動かしながら言った。
親切にナイフとフォーク、小皿も用意されていて花火が終わるとさゆりがケーキを切り分けてくれた。少し火薬のにおいが残っている。お決まりでクッキーは私の皿に乗せられ、一切れずつみんなで食べた。店員が残りのケーキを箱へ戻してくれ、受け取るとすぐに店を出た。90分の時間制ということでやはり人気店のようだ。創作料理で見た目も鮮やかだったが美味かと問われると答え難い。
「俺、凛ちゃん送って行くわ」
駐車場で解散の空気が流れた時、近藤が言った。
3人とも驚いて数秒間が空いた。
「そ、うだね。そうしてもらいなよ」
さゆりが少し戸惑いながらも笑って言うと、ちゃんと送れよ、と北川も笑った。
「当たり前だろう」
近藤も笑った。
私は警戒する気など全くおきなかった。さゆりには申し訳ないが近藤が私を異性として見ていないという確信があった。特に気を遣うこともなく2人にお礼を言って助手席へ乗り込む。
「国道に出ればいいのかな」
「はい、有楽分かりますか?」
「カラオケ?」
「はい。そこの前通ると早いです」
「分かった」
シートベルトを締めながら『有楽』と口にして胸が騒ぐ自分にいい加減嫌気がした。
「春ここの桜すごいよね」
『有楽』の桜の木を見ながら近藤が言った。
「そうですね」
初めてふたりきりになったけれど、緊張ではなくきっと上の空だった。私は悠樹の姿を探している。彼のアパートはすぐ近くだ。通りかかってもおかしくはない。けれどそんな都合良く彼を見つけることなどできず、近藤ともたいして会話もなく家の近くのコンビニが見えてきた。