『おはよう、明日ご飯行こう』
日課のように毎朝届くさゆりからのメッセージ。
明日は私の誕生日だ。女友達からの誘いしかないのは少し寂しいけれど、ひとりで過ごす方がもっと寂しいだろう。
日付が変わると、おめでとう、とさゆりからメッセージが届いた。

当日の夜は珍しく残業になってしまい、さゆりたちが自宅まで迎えに来てくれた。11月にしては寒い夜だった。
「近藤さんも後で来るから」
北川の車に乗り込むとさゆりがすぐに言った。
「うん」
さゆりが近藤と私を近付けようとしていることには気付いていた。それならその作戦に乗っても良い。彼を忘れられる方法があるなら教えてもらいたいくらいだ。
今日の店は外観からして洒落ていた。白い壁に大理石で店の名前が書かれている。シンプルに見えるがこだわりに違いない。店内の壁にガラス棚が一面に巡らされ陶器が隙間なく並べられている。フローリングの床は艶やかですべての席が個室になっていた。
愛想の良い店員に案内され個室へ入る。いつもは私とさゆりが隣に座るが、今日はさゆりは北川の隣を選んだ。
「もうちょっとかかるから先にはじめててって」
北川が携帯を弄りながら言ってからメニューを開いた。
可愛らしい字だが毛筆で書かれている。お洒落な長めの品名ばかりだ。
「ここいつも入れなくてやっと予約とれたの」
さゆりが嬉しそうに言った。
「ふたりきりで来なくてよかったの?」
と少し茶化してみた。
「みんなで来た方が楽しいじゃん。ほぼ毎日ふたりだし」
私はそっか、と答えた。そうだ、さゆりは毎日傍に居てくれる人がいるのだ。私も、心乱されることのない穏やかな幸せが欲しい。