家に着いてさゆりに到着の連絡をしてから、私はあゆに電話をかけた。ちゃんとあゆに繋がるだろうか。もしも番号を変えていてもきっと連絡はこないだろう。あゆとはその程度の関係だった。
5回ほどコールを鳴らし、もう切ろうかと思った時に、もしもし、と声が聞こえた。こんな声だっただろうか。電話の向こうだからだろうか、それとも久しぶりだからだろうか。
「久しぶり。今大丈夫?」
「うん、大丈夫。どうしたの?」
あゆはすぐにそう聞いてきた。当然だ。
「直正くんていたじゃん?あゆが付き合ってた人」
「あぁ、うん」
「今も連絡してる?」
「してないよ、どうしたの?」
「そっか、その友達の悠樹くんて知ってる?」
「うん、知ってる」
「悠樹くんて、どんな感じの人?」
そう質問すると、間が空いたのが分かった。
何から話そうかまとまっていなかったが、あゆに隠す必要もない。
「あ、最近たまたま教習所で会ってね、ちょっといいかなと思って」
「あー悠樹くんね、やめといた方がいいと思う」
あゆの声のトーンが変わったのが分かる。
「直正くんにもそれ言われたんだけど」
「悠樹くんは本気の彼女とか作らない人だと思うから。あたしの友達ともちょっとあってさ、付き合ったとかじゃないんだけど、なんかあんまりいい終わり方じゃなくてさ」
「そうなんだ」
「なんかあの人、不思議な空気?みたいなのあるよね。女を惹きつけるっていうのかな。そんなに格好良いわけじゃないのにすっごくモテるって直くん言ってた」
「直正くんの方がルックスは完全に良いよね」
「それね。あたし友達に酷いことされたから直くんに悠樹くんとの付き合いやめてほしいって話して、それもあってうまくいかなくなったんだよね。まぁ悠樹くんは女に本気になったりしないからとにかくやめといた方がいいよ」
やはりあゆもそう言って締めくくった。
またご飯でも行こうと社交辞令を交わしてから電話を切った。
良い話が聞けるとは思っていなかったけれど、あゆの彼への恨みも感じとれ、胸が痛んだ。