北川はともかく、初対面の近藤もいるというのに。きっと困惑しているだろう。北川たちの方を見ることもできない。私はどうかしてしまったのだろうか。
「ちょっとトイレ」
さゆりが私の腕を掴んで立ち上がると、適当に頼んどくよ、と近藤が言ったのが聞こえた。とんでもない場所に呼ばれたと内心苛立っているかもしれない。
さゆりは私の腕を掴んだまま個室へ入った。洗面が設置されているタイプで、ふたりで入ると狭い。
「大丈夫?」
「ごめん、たいしたことじゃないんだけど、ひどいこと言ってごめんって直正くんからLINEきてて。でももう大丈夫だから」
トイレットペーパーで鼻を噛んで流した。その音がやけに大きく聞こえ、なんだかすっきりした。
「凛、どうにもならないことって世の中にはあるんだよ」
さゆりのその言葉の意味はちゃんと理解できている。それでも、私にはこの想いをたち切れる強い力がない。
「鼻赤くなってる」
今度は笑いながらさゆりが言った。
その赤みが引いてから席に戻った。北川たちに合わせる顔がないのでこのまま帰ってしまいたかったけれど、考えてみればどう思われてもかまわない。すでに変な女だと思われているだろう。
ふたりは何もなかったように食事をはじめていた。
無口な北川と打って変わって近藤はよく喋る。
「ふたりとも10代か、若いな」
何か話す度にリアクションが大きく、よく笑い、強弱のある話し方もとても好感が持てる。
「俺たちにもそんな時あったよな」
いつもは無口な北川も今日はよく喋っている。
「人生の岐路だったな」
近藤はそう言って笑った。
私も一応笑っている。さゆりが私を心配して連れ出してくれていることはよく分かっている。それでも最低な私はこの時間さえ虚しいと感じている。この空虚感はいつまで続くのだろう。そんなことを考え始めると、胸が苦しくなるばかりだ。