「今日はバイトですか?」
直正も『有楽』でバイトしていると聞いた覚えがある。
「週末は休みなんだ。今教習終わって暇つぶしに来た。凛ちゃんは?」
暇潰し、と聞き、彼と会う約束をしてはいないと分かると、損でもしたかのように鼓動が小さくなった。
「友達と約束していて」
そんな嘘を言うしかない。
「そうなんだ。凛ちゃんも免許取ったんだね。悠樹も取ったし、俺だけになっちゃった」
その名を聞くとまた鼓動が早くなる。けれどこれは出会った頃のようなときめきではなく切なさだ。
「悠樹くん、何か言ってませんでしたか?」
彼と話す事もできない私は、もう直正に頼るしかない。
直正は、ん?と目を見開いて入り口の5段ほどの階段の1番上へ座った。私も隣へ腰掛け、直正を見ないようにしてもう1度聞いた。
「私のこと、何か言ってませんでしたか?」
「やっぱり好き、だった?直正のこと」
少し曇った表情に変わった直正からの問に小さく頷いた。
「悠樹から何か聞いたわけでないけど、そんな気がしてた」
気付かれていても不思議はない。気持ちを隠すつもりなどなかった。友達公認の彼女になりたかった。
「悠樹ってなんか独特の雰囲気みたいなのあるよな」
「はい」
「あいつそんなに男前、てわけじゃないのにモテるんだよね」
「はい」
私は泣いてしまいそうになり頷くことしかできなかった。
「あのさ、これが適当な子なら俺も適当に励ますかもしれない。でも凛ちゃんはあゆの友達だし凛ちゃんのために言うけど‥何があったか知らないけど、悠樹のことは忘れた方がいい」
後ろ頭を叩かれたように鈍い痛みが走った。