「まだ分からないし」
「じゃあいつになったら分かるの?」
さゆりには分からない。あんなに好きだと言ってくれてあんなに抱きしめてくれた。それが幻だったはずがない。
黙り込んだ私を今度は諭すように言った。
「もうそんな男忘れよ。そんなクズに時間使うの勿体無いから。凛にはもっといい男いくらでもいるから」
「でも、だって好きなんだもん」
声が震え、頬に違和を覚え気付く。自分でも分かっていない間に涙が流れていた。
「大丈夫だから、あたしがいるから」
さゆりはぼろぼろと涙を溢しながら私の両手を握った。その手は暖かくて安心したけれど、それでも彼のことばかり考えている。一緒に泣いてくれるさゆりがいるのに、私の心に彼が棲みついている。そして彼を信じている。彼以上の人なんて存在しない。

翌日の日曜はやはり休日で、朝を迎えるとこの世の終わりのような気にさえなる。ベットに横になっているとどんどん不安が増してきて慌てて起き上がる。望みをかけて携帯を見る。さゆりからメッセージがきているが『悠樹』からのメッセージはない。
久しぶりに母と外食し、なんとか時間を潰して帰宅した。彼と居られないなら、何もかもが虚しい。心に穴が空く、とはこんな時に使う言葉だろう。こんなに彼を好きになる理由はどこにあったのだろう。それでも、短い夢だったなど思いたくない。