まるで絵の具をべったりと塗りつけた青すぎる空、見上げると瞬きが増えるのは眩しさのせいだろうか。陽の光に容赦なく照り付けられた乾いたアスファルトから焦げた臭いがする。夏は嫌いだ。こんな暑い日は特に嫌いだ。
自宅から30分ほど自転車を走らせ、やっと目的地に到着した。昨年改装したばかりの建物は真新しく、素通りしただけでは自動車教習所とは気付かないだろう。黄色に近いクリーム色の外壁はどこかメルヘンだ。
大きなガラスのドアは自動だが手を触れなければ開かない。面倒だなと思いながら冷えた館内へ入ると、汗がどっと吹き出した。
次の学科教習時間まで10分弱。予想通りの到着だ。自動販売機の隣、2階へ上がる階段のすぐ近くの緑色の長椅子へ腰掛け、カバンの中から携帯電話を取り出した。さゆりからLINEがきている。さゆりは高校3年間続けていたバイト先で知り合った親友だ。
「凛ちゃん?」
急に声をかけられ、驚いて顔を上げた。
日に焼けた肌に黒髪の長身。整った顔立ちはかなりのハンサムだ。半ズボンにサンダル。足の甲まで良く陽に焼けている。
「あれ、違う?」
彼は苦笑いをした。
「あ、そうです」
そう答えながら記憶の糸を辿る。見覚えがある。確かに会ったことがある。
「やっぱ凛ちゃんだよね?あゆの友達の」
「あゆの彼氏」
思わず指をさす。
そうだ、同じ高校に通っていたあゆかの彼氏だった人だ。あゆとは特段仲が良かったわけではないが自宅が同じ方向で駅にいる彼とあゆをよく見かけていた。あの頃は大学生と聞いただけで格好良く見えたものだ。
「もう別れたけどね」
彼はまた苦く笑った。名前は確か直正、だった気がする。あゆは彼をなおくん、と呼んでいたはずだ。記憶違いでなければ。
「教習所、通ってるんですか?」
私は当たり前の質問をした。そうでなければこの場に居るはずもない。
「うん、時期外れ」
「時期外れ?」 
「うん、凛ちゃん高校出たばかりだから18でしょ?18で取る人多いけど俺ひとつ上だから」
「あぁ、そういうこと」
その会話を遮る遮るように学科教習終了のチャイムが鳴った。2階からガラガラと椅子を引き摺る音が響き、教習生たちが続々と階段を降りてきた。