高層階用のエレベーターで最上階へ。フロア奥のバーへと進む。店内は薄暗いがオレンジの間接照明が店内をムーディに彩り、ジャズピアノのメロディが耳に心地いい。
眼下に夜景が広がる窓際にカウンター席に向かい、カウンターチェアの腰を落ち着ければ、スタッフがおしぼりを手渡してくれた。
「なにを飲む?」
和眞がメニューを広げてくれるが、璃桜は見ることなく答えた。
「私はオレンジジュースで」
「酒は飲まないの?」
その問いに曖昧に微笑んで応えれば、和眞はスタッフに顔を向けた。
「彼女はオレンジジュース、俺はジントニックで。つまみはミックスナッツとチョコレートを」
「かしこまりました」
キレのある礼をしてスタッフが下がっていく。しかしながらすぐに戻ってきて、注文したメニューをテーブルに並べた。
「ありがとう。では、華原さん」
和眞がグラスを胸の位置まで掲げたので璃桜も同じように持ち上げて乾杯する。それからグラスに口をつけた。
「………………」
「どうかした?」
璃桜の態度に和眞が首を傾げる。飲んだオレンジジュースがおいしいからびっくりした、とは言えないので、「いいえ」と答えたものの、和眞と一緒に飲むだけで味が違うと思ってしまった自分が恥ずかしい。
視界には東京の煌びやかな夜景が広がっている。高級ホテルの最上階にあるバーで二人きりなど、どれほど願ったシチュエーションだろうか。本当だったら泣き出してしまいそうなほどうれしい。だがもし涙を流せば、現実を思い知らせる苦しみのそれになってしまうだろう。
「アルコールはダメなのか?」
「いくら勤めていた会社の社長とはいえ、男性と二人になって、酔って帰ったらマズいので控えたいです。でも、たくさんは無理ですが、少しくらいなら飲むし、好きです」
「なにが好きなの?」
「そうですね、発泡酒とか」
「今度ご馳走するよ」
「……今度?」
驚いて聞き返せば、和眞はふっと微笑んだ。
「嫌かい?」
「そういう問題では……いえ、嫌です」
きっぱりと答えれば、和眞は可笑しそうに笑いだした。
「そこ、笑うところですか?」
「真面目だなって思ってさ」
「真面目です」
「だって君、俺を誘惑したんだぞ?」
「――――――」
「俺のスケジュールを調べて、俺の跡をつけて待ち伏せして、ホテルに引っ張り込んだんだ。そんな女が真面目ってさ、笑うだろ」
なにが言いたいのか、貶めて笑いたいのか、聞きながらいろいろ考えてしまう。とはいえ、言われていることは真実なので反論する気になれず、璃桜が羞恥に顔を赤くし、うつむいた。
(話があるって言われたから来ちゃったけど、間違いだったのかな)
憧れた人に蔑まれるなら、憎まれ口をたたき続けて帰ればよかった――そう思うと、急にこみ上げてくるものがあり、鼻の奥にツンと痛みが走った。視界もじわりと滲んでくる。
このままでは本当に泣きそうだ。璃桜は伏し目がちにテーブルの上のグラスを見ながら口を開いた。
「社長、私、人に辱められるのをじっと耐えて聞いているほど変わり者ではありません。お話がそんな内容なら、帰らせていただきます」
今度は和眞が黙り込んだ。だから顔を上げ、和眞と視線を合わせることにした。
「あの時言ったことは全部嘘です。だからもう忘れてください」
「どれが本当でどれが嘘なのか、そんなことはどうでもいい。知りたいのは別のことだ。なぜ俺を選んだんだ。誰でもよかったのか?」
「……社長なら、応じてくれると思ったからです」
「散らすことをか?」
コクリと頷いた。
「婚約者と関係を持つ前に、散らしておきたかったってことか?」
「そうです。社長はあの人が誰かご存じなんでしょう? だったらわかるはずです。でも、悔いていません」
「華原さん」
苗字を呼ばれ、璃桜は息をのんだ。
本当は、そんなふうには呼ばれたくないから。
「本当のことを言います。社長に憧れてIFSSを受けて入社しました。でも三年って決まっていたんです。三年経ったら会社を辞めて、父の用意した相手と結婚するって約束していました。八か月前に淳也さんの名前が挙がって、半年前に会いました。向こうも打算があるから断るようなことはなくて、問題なく婚約となりました。すべて納得しています。だけど、一つだけどうしても抵抗があって、それを解消したくて社長の身辺を探っていたんです。社長はいろんな意味で適役だったから」
好きだから。
特定の相手と交際しないから。
「こじれないって?」
「そうです。お互い都合がいいはずですから。利害は一致すると思って。そうでしょう?」
「……まぁ」
璃桜は明瞭でない和眞の返事に小さく吐息を落とすと、グラスのオレンジジュースを残り全部飲み干し、立ち上がった。
「もう充分と思います。これで失礼します」
だが、手首を掴まれた。
「まだだ」
璃桜の瞳に怒りが浮かんだ。
「社長がなにを考えているのか知りませんが、もう終わったことです。説明はしました。利用したことを謝れと言うなら謝ります。すみませんでした。でも、あの車は社長のものですから、拒絶もできました。あの夜のことは互いに合意の上であったことは申し上げておきます」
「わかっている。君は、あの婚約者との結婚を受け入れていないだろう?」
「そんなことはありません」
「心の話だ」
その指摘は胸に痛い。痛すぎて言葉を失った。くっと唇を噛み、視線を逸らせた。だが――
「そうであったとしても、社長には関係ありません」
「そんなことはない。俺たちは特別な関係だ」
「いいえ、違います」
「では言い直す。君が、いや、璃桜、お前が欲しい。今、すぐ。お前の肌が恋しい」
あまりの衝撃に璃桜は両眼を見開き、わずかに唇も開いて和眞を見た。
「なにを――」
唇が震えた。
「あんな男と一緒にいるのを見せつけられて、じっとしていられなかった。自分の中にある苛立ちの正体がなんなのか、バカじゃないからわかっている。嫉妬だ」
掴まれている手に力がこもった。その意味がわからないわけがない。璃桜は動揺して視線をきょろきょろと周囲に泳がせた。
「君」
そんな璃桜を横目に見ながら和眞は近くを通るスタッフに声をかけた。
「すまないが、ここからなるべく近い部屋を押さえてくれないか」
「かしこまりました。少々お待ちを」
去っていくスタッフの背を目で追いつつ、璃桜は自分の呼吸が浅く荒くなるのを感じた。
(ダメよ、そんなこと)
常識ある心の声が胸中で響く。
悩む間にスタッフが戻ってきた。
「一階下の階にスイート用のフロントがございます。当店『ラ・ビュー』の名を告げていただければご案内いたします」
「ありがとう」
和眞は礼を言うと立ち上がり、璃桜の手首を掴む手を離すと歩き始めたが、数歩進むと振り返った。怖じ気づく璃桜のもとに歩み寄れば、手を繋いで再び歩き出した。
(ダメだって!)
心の声が激しく叱責する。
受け入れれば泥沼に足を突っ込むのは間違いないのだ。
(璃桜、理性的になるのよ)
手を引かれて歩き、エレベーターに乗り込む。下りればフロントがあり、和眞が宿泊カードに記入してキーを受け取っている。いくらでも逃げられる。それなのに体が動かない。
(璃桜!)
自分で自分を叱責する。理性は機能している。だが、やはり動けない。
(私――)
追い詰められたら本心が鎌首をもたげる。
本当に望んでいることが明確になってくる。
隠していたものがあらわになる。
(ずっと社長に憧れて――好きだった)
並んで歩き、促されて部屋に入った。広い部屋だ。スイートルームは二間続きになっていて、奥が寝室だ。キングサイズのベッドが並んでいる。その傍に立てば、正面からそっと抱きしめられた。
(セフレなんて望んでいないって言ったくせに)
セフレでいいと思っている自分がいる。この人をずっと追いかけてきた。実るならなんでもいいと願っている。
(社長――)
唇に温かい感触が広がり、ゆっくり圧が加わって深く強く重なりあう。何度かチュッチュッとリップ音が響けば、心がざわついて体が一気に熱くなった。
「は、あ……」
「璃桜」
名を呼ばれ、ゾクリと怪しいものが背筋を駆け抜けた。
苗字で呼ばれるのが嫌だと思ったのだ。
名前で呼んでほしいと願った。
「待ってください」
「嫌だね。放すと逃げ出しかねない」
「いいえ、怖いから安心したいんです。一分、時間をください」
「逃げない?」
「このままでいいから」
背中に回された腕が少し下がって腰に至った。二人の間にわずかな空間ができる。璃桜は持っていたハンドバッグからスマートフォンを取り出した。
「もしもし、お母さま? 璃桜です。あの、ごめんなさい、話が盛り上がって飲みすぎてしまって、社長が心配して部屋を取ってくれました。今夜は休んでいこうと思います。え? あ、それは」
そこまで言うと和眞がスマートフォンを取り上げてしまった。
「もしもし、はじめまして、IFSSの代表取締役社長を務めております松阪です。僕の不注意で飲ませすぎてしまいました。スイートを取りましたので華原さんには泊まっていってもらおうと思います」
『娘をよろしくお願いいたします』
史乃の声がスマートフォンから流れてきて、璃桜にも聞こえた。
「あ、いえ、僕はこのまま帰ります」
『あなたを信用します。一人のほうが心配なので、お任せします』
「ですが」
『失礼します』
プチンと切れてしまった。
「えらく淡白だな。いいのかな」
「嘘ばっかり」
璃桜は上目遣いに和眞を見た。
これからまさしくいたそうというのに、帰るとはよく言ったものだ。
璃桜のまなざしに和眞は苦笑した。
「確かに」
次の瞬間、濃厚で情熱的なキスが与えられ、璃桜は目を閉じながらもめまいを覚えた。翻弄されるままに受け入れる。
キスも、脱衣も、愛撫も、全身全部。
眼下に夜景が広がる窓際にカウンター席に向かい、カウンターチェアの腰を落ち着ければ、スタッフがおしぼりを手渡してくれた。
「なにを飲む?」
和眞がメニューを広げてくれるが、璃桜は見ることなく答えた。
「私はオレンジジュースで」
「酒は飲まないの?」
その問いに曖昧に微笑んで応えれば、和眞はスタッフに顔を向けた。
「彼女はオレンジジュース、俺はジントニックで。つまみはミックスナッツとチョコレートを」
「かしこまりました」
キレのある礼をしてスタッフが下がっていく。しかしながらすぐに戻ってきて、注文したメニューをテーブルに並べた。
「ありがとう。では、華原さん」
和眞がグラスを胸の位置まで掲げたので璃桜も同じように持ち上げて乾杯する。それからグラスに口をつけた。
「………………」
「どうかした?」
璃桜の態度に和眞が首を傾げる。飲んだオレンジジュースがおいしいからびっくりした、とは言えないので、「いいえ」と答えたものの、和眞と一緒に飲むだけで味が違うと思ってしまった自分が恥ずかしい。
視界には東京の煌びやかな夜景が広がっている。高級ホテルの最上階にあるバーで二人きりなど、どれほど願ったシチュエーションだろうか。本当だったら泣き出してしまいそうなほどうれしい。だがもし涙を流せば、現実を思い知らせる苦しみのそれになってしまうだろう。
「アルコールはダメなのか?」
「いくら勤めていた会社の社長とはいえ、男性と二人になって、酔って帰ったらマズいので控えたいです。でも、たくさんは無理ですが、少しくらいなら飲むし、好きです」
「なにが好きなの?」
「そうですね、発泡酒とか」
「今度ご馳走するよ」
「……今度?」
驚いて聞き返せば、和眞はふっと微笑んだ。
「嫌かい?」
「そういう問題では……いえ、嫌です」
きっぱりと答えれば、和眞は可笑しそうに笑いだした。
「そこ、笑うところですか?」
「真面目だなって思ってさ」
「真面目です」
「だって君、俺を誘惑したんだぞ?」
「――――――」
「俺のスケジュールを調べて、俺の跡をつけて待ち伏せして、ホテルに引っ張り込んだんだ。そんな女が真面目ってさ、笑うだろ」
なにが言いたいのか、貶めて笑いたいのか、聞きながらいろいろ考えてしまう。とはいえ、言われていることは真実なので反論する気になれず、璃桜が羞恥に顔を赤くし、うつむいた。
(話があるって言われたから来ちゃったけど、間違いだったのかな)
憧れた人に蔑まれるなら、憎まれ口をたたき続けて帰ればよかった――そう思うと、急にこみ上げてくるものがあり、鼻の奥にツンと痛みが走った。視界もじわりと滲んでくる。
このままでは本当に泣きそうだ。璃桜は伏し目がちにテーブルの上のグラスを見ながら口を開いた。
「社長、私、人に辱められるのをじっと耐えて聞いているほど変わり者ではありません。お話がそんな内容なら、帰らせていただきます」
今度は和眞が黙り込んだ。だから顔を上げ、和眞と視線を合わせることにした。
「あの時言ったことは全部嘘です。だからもう忘れてください」
「どれが本当でどれが嘘なのか、そんなことはどうでもいい。知りたいのは別のことだ。なぜ俺を選んだんだ。誰でもよかったのか?」
「……社長なら、応じてくれると思ったからです」
「散らすことをか?」
コクリと頷いた。
「婚約者と関係を持つ前に、散らしておきたかったってことか?」
「そうです。社長はあの人が誰かご存じなんでしょう? だったらわかるはずです。でも、悔いていません」
「華原さん」
苗字を呼ばれ、璃桜は息をのんだ。
本当は、そんなふうには呼ばれたくないから。
「本当のことを言います。社長に憧れてIFSSを受けて入社しました。でも三年って決まっていたんです。三年経ったら会社を辞めて、父の用意した相手と結婚するって約束していました。八か月前に淳也さんの名前が挙がって、半年前に会いました。向こうも打算があるから断るようなことはなくて、問題なく婚約となりました。すべて納得しています。だけど、一つだけどうしても抵抗があって、それを解消したくて社長の身辺を探っていたんです。社長はいろんな意味で適役だったから」
好きだから。
特定の相手と交際しないから。
「こじれないって?」
「そうです。お互い都合がいいはずですから。利害は一致すると思って。そうでしょう?」
「……まぁ」
璃桜は明瞭でない和眞の返事に小さく吐息を落とすと、グラスのオレンジジュースを残り全部飲み干し、立ち上がった。
「もう充分と思います。これで失礼します」
だが、手首を掴まれた。
「まだだ」
璃桜の瞳に怒りが浮かんだ。
「社長がなにを考えているのか知りませんが、もう終わったことです。説明はしました。利用したことを謝れと言うなら謝ります。すみませんでした。でも、あの車は社長のものですから、拒絶もできました。あの夜のことは互いに合意の上であったことは申し上げておきます」
「わかっている。君は、あの婚約者との結婚を受け入れていないだろう?」
「そんなことはありません」
「心の話だ」
その指摘は胸に痛い。痛すぎて言葉を失った。くっと唇を噛み、視線を逸らせた。だが――
「そうであったとしても、社長には関係ありません」
「そんなことはない。俺たちは特別な関係だ」
「いいえ、違います」
「では言い直す。君が、いや、璃桜、お前が欲しい。今、すぐ。お前の肌が恋しい」
あまりの衝撃に璃桜は両眼を見開き、わずかに唇も開いて和眞を見た。
「なにを――」
唇が震えた。
「あんな男と一緒にいるのを見せつけられて、じっとしていられなかった。自分の中にある苛立ちの正体がなんなのか、バカじゃないからわかっている。嫉妬だ」
掴まれている手に力がこもった。その意味がわからないわけがない。璃桜は動揺して視線をきょろきょろと周囲に泳がせた。
「君」
そんな璃桜を横目に見ながら和眞は近くを通るスタッフに声をかけた。
「すまないが、ここからなるべく近い部屋を押さえてくれないか」
「かしこまりました。少々お待ちを」
去っていくスタッフの背を目で追いつつ、璃桜は自分の呼吸が浅く荒くなるのを感じた。
(ダメよ、そんなこと)
常識ある心の声が胸中で響く。
悩む間にスタッフが戻ってきた。
「一階下の階にスイート用のフロントがございます。当店『ラ・ビュー』の名を告げていただければご案内いたします」
「ありがとう」
和眞は礼を言うと立ち上がり、璃桜の手首を掴む手を離すと歩き始めたが、数歩進むと振り返った。怖じ気づく璃桜のもとに歩み寄れば、手を繋いで再び歩き出した。
(ダメだって!)
心の声が激しく叱責する。
受け入れれば泥沼に足を突っ込むのは間違いないのだ。
(璃桜、理性的になるのよ)
手を引かれて歩き、エレベーターに乗り込む。下りればフロントがあり、和眞が宿泊カードに記入してキーを受け取っている。いくらでも逃げられる。それなのに体が動かない。
(璃桜!)
自分で自分を叱責する。理性は機能している。だが、やはり動けない。
(私――)
追い詰められたら本心が鎌首をもたげる。
本当に望んでいることが明確になってくる。
隠していたものがあらわになる。
(ずっと社長に憧れて――好きだった)
並んで歩き、促されて部屋に入った。広い部屋だ。スイートルームは二間続きになっていて、奥が寝室だ。キングサイズのベッドが並んでいる。その傍に立てば、正面からそっと抱きしめられた。
(セフレなんて望んでいないって言ったくせに)
セフレでいいと思っている自分がいる。この人をずっと追いかけてきた。実るならなんでもいいと願っている。
(社長――)
唇に温かい感触が広がり、ゆっくり圧が加わって深く強く重なりあう。何度かチュッチュッとリップ音が響けば、心がざわついて体が一気に熱くなった。
「は、あ……」
「璃桜」
名を呼ばれ、ゾクリと怪しいものが背筋を駆け抜けた。
苗字で呼ばれるのが嫌だと思ったのだ。
名前で呼んでほしいと願った。
「待ってください」
「嫌だね。放すと逃げ出しかねない」
「いいえ、怖いから安心したいんです。一分、時間をください」
「逃げない?」
「このままでいいから」
背中に回された腕が少し下がって腰に至った。二人の間にわずかな空間ができる。璃桜は持っていたハンドバッグからスマートフォンを取り出した。
「もしもし、お母さま? 璃桜です。あの、ごめんなさい、話が盛り上がって飲みすぎてしまって、社長が心配して部屋を取ってくれました。今夜は休んでいこうと思います。え? あ、それは」
そこまで言うと和眞がスマートフォンを取り上げてしまった。
「もしもし、はじめまして、IFSSの代表取締役社長を務めております松阪です。僕の不注意で飲ませすぎてしまいました。スイートを取りましたので華原さんには泊まっていってもらおうと思います」
『娘をよろしくお願いいたします』
史乃の声がスマートフォンから流れてきて、璃桜にも聞こえた。
「あ、いえ、僕はこのまま帰ります」
『あなたを信用します。一人のほうが心配なので、お任せします』
「ですが」
『失礼します』
プチンと切れてしまった。
「えらく淡白だな。いいのかな」
「嘘ばっかり」
璃桜は上目遣いに和眞を見た。
これからまさしくいたそうというのに、帰るとはよく言ったものだ。
璃桜のまなざしに和眞は苦笑した。
「確かに」
次の瞬間、濃厚で情熱的なキスが与えられ、璃桜は目を閉じながらもめまいを覚えた。翻弄されるままに受け入れる。
キスも、脱衣も、愛撫も、全身全部。