星を詠み、星で占う。そんな仕事を生業としていた時もあった。

 仕事じゃない星を見るのは良いなぁと一人でプラネタリウムに来ている。星は平安の世も今の世も変わらない。

 ほんとは秋生《しゅうせい》さんと来る予定だったのに、急な仕事で行っちゃった。

 星を見ながらぼんやりと過去を思い出す。

『あの子、気持ち悪いからキライ』

『いつも一人でね、ブツブツ言ってるの』

『普通じゃないよね』

 そう言って、友達になってもすぐに友達じゃなくなる。人の友達は苦手だった。せっかく友達になれて嬉しいと思ってもすぐに離れていなくなっちゃうから。

 プラネタリウムの空に流れ星が流れた。星が雨のように降ってゆく。やがて暗転して終わった。

 静かに見終わった人たちが出ていく。秋生さん、お仕事終わったかな?今日は帰って来るのかな?

 お土産にお饅頭でも買っていこう。そう思って外に出ると、雨が降っていた。降水確率、そんなに高くなかったから、油断してたなぁ。

 細い雨がパラパラ落ちてくる。振り立ての雨らしく、足元で蛙のような小さな人ならぬものたちが囁いて、蠢いている。

『雨だよ』

『雨だね』

『ここ最近晴ればかりで飽き飽きしてた』

『ハハッ。見なよ。みんな良い具合に濡れて走ってるよ』

 私も妖に笑われつつ、走っていこうかなと思ったときだった。

「雨が降ったから迎えに来たよ」

 傘を二つ持って、にこやかに現れる秋生さん。

「お仕事はどうしたの?傘、持っていっていないこと気づいたの?」

「けっこう早く終わったんだ。傘は玄関にあったし、出かける時快晴だったから持っていっていないと思ったよ」

 ハイと赤い私の傘を渡してくれる。お仕事行って帰って、このプラネタリウムまで来るのに時間、けっこうかかるのに不思議だわと思いつつ、ありがとうとお礼を言う。

 赤色の傘を開いて並んで歩く。

 秋生さんは人なのに傍に居てくれる。私の傍に居てくれるのは人ならぬものばかりだった。傍に居てくれてありがとうと感謝したくなる。

 雨の中、黒色の傘をさす、私より大きな背中の秋生さんの後ろ姿をジッと見た。

 でも時々、気になることかあるの。

 秋生さん、本当に人なの?人だよね?人ならぬ者には到底思えない。

 妖は見えてないようだし、家には結界だって張ってあるのに全然平気だし……うん。大丈夫。

 どうしたの?と振り返る秋生さん。なんでもないわと笑って隣に並ぶ。

 雨は降り続ける。私と秋生さんの間にも。

 でも時々、秋生さんから微かに……ほんの微かに鬼のような気配がするような気がするの。

 それに気づかないふりをずっとしていたい。