「愛琳様!大変です!!」

いきなり部屋の片付けをしていた仙月(シェンイェ)が肩で息をしながら慌てて入ってくる。

「どうしたの仙月、何があったの?」

「あの皇帝陛下が、来られていて扉の向こうに居らっしゃるんです⋯」

驚きすぎて変な声が出そうだったがグっと堪える。慌てて席を立ち身だしなみを整えると、侍女の美鈴が扉を開けた。

陛下の姿が見えると私は慌てて拱手礼をする。

「そんな堅苦しいことはしなくていい、急に悪いな長旅で疲れているだろうに」

私は拱手礼を辞め、姿勢を質した。先程の麗花の話によると、主上は女に興味がなく冷たいとなると落とすのはかなり難しいだろう。

どのような要件で来られたのかは分からないが媚びを売るのはやめておいた方がいいだろう。

「いいえ、そんなことありませんわ。主上こそわざわざ足をお運び頂きありがとうございます。どうぞ中へお上がりください」

私はそう言って陛下に中に入って頂く。

夕食時に皇帝が妃の宮に行き一緒に夕食を食べるというのはおかしな話ではなかったが、麗花の話を聞く限りそんなタイプには見えない。

「申し訳ないですが、まだ夕食ができていなくて⋯」

「いや、構わない。俺はお前と話がしたくて来たのだからな」

思わずパチパチと瞬きをした。私と話がしたい⋯?先程の陛下の反応と言い今のこの発言といいこの方、私に気があるのかもしれない。

とは言えここは慎重に、でも少しばかり仕掛けてみるのも悪くないかもしれない。

「お前達、朕は愛琳と二人で話がしたい。悪いが席を外してくれないか」

後ろにいた家臣たちが一瞬驚き少し渋る様子を見せる。無理もない、これでもし私が暗殺者だったりした場合罰せられるのは自分たちだろう。

「下がれと言ったはずだ、聞こえなかったか?」

しかし、主上はさらに念を押した。

私と話している時とは違いすぎる、冷たく地を這う様な声に此方まで震え上がりそうだ。

「し、失礼します!」

家臣たちは顔面蒼白、目にも留まらぬ速さで去っていった。と言ってもきっと部屋の外には居るだろう。