「此方、李の一族から居らっしゃられた徳妃、李愛琳様にございます」

そう言って拱手礼をすると宦官は下がった。私は前に出て拱手礼をした。

「お初にお目にかかります陛下、北部の李一族から参りました李愛琳でございます」

主上は相変わらず頬ずえをついたまま私を見つめた。

「面を上げよ」

私が拱手礼をやめ、前を向くと、主上と目が合う。漆黒の髪に深い青の瞳。目付きは冷たかったが、端正な顔立ちの方だった。すると主上は一瞬目を見開いたかと思うと貝のように口を閉ざしてしまう。何か粗相を犯したかと不穏な空気が漂い始める。

「⋯主上、どうか、、なさいましたか?」

後ろに控えていた家臣がそう聞いた。普通、陛下のお許し無しに口を開けば不敬罪と捉えられても可笑しくない。

しかし、当の主上は気にも留めていない様子だった。

「あぁ、すまない。愛琳、お前には朕から侍女を1人やろう。そこのお前、愛琳を桔梗宮に案内してやってくれ」

私と暁東は拱手礼をして下がった。にしても凄く呆気ない挨拶だった。

掴みは少し失敗したかもしれない、溜息をつきそうになるも笑顔を張りつけ建物を出た。

すると背の高い女が此方に歩いてくる。

「李徳妃様、私主上の勅命で参りました、孫麗花(ソン・レイファ)と申します。」

麗花は私に拱手礼をした。上背がありつり目気味の端正な顔立ちの女だった。

私も挨拶をすると宦官は私の住まいという桔梗宮に歩き始めた。