「私はここまでにございます。どうか、お気を付けて」
私はペコりと頭を下げ馬車を降りる。私が正門の前に立つと門がゆっくりと開いた。皇帝の妾になれるなんて女としてこの上ない幸せだろう。

しかしその実態は女達の醜い争いや穢らわしい陰謀に塗れているだろう。しかしもう後戻りはできない。私は一歩、また一歩と後宮内に入って行った。

吐き気がするほどに飾り立てた女達が私の事を品定めするように見る。見世物じゃないんだけどと苛つく心を治め侍女を引き連れ穏やかに歩いて行った。少し歩くと、宦官に声を掛けられる。

「李徳妃様ですね?私主上付きの宦官で、貴方様の案内役を致すものです。」

宦官は私に拱手礼を深々としてそう言った。

「初めまして、北部の李一族から参りました、李愛琳と申します。ところで私はこの後何処に向かえばよろしいのですか?」

私がそう微笑むと宦官は一瞬頬を赤らめたかと思うと頭を振った。

「今から主上が玉座でお待ちですので、李徳妃様は挨拶に向かって頂きます。それが終わりましたらお住いになる桔梗宮(キキョウキュウ)へ案内致します」

宦官について行くと今まで以上に高貴な建物へ案内さ
れる。

帝国(ユウ)の第七代皇帝、劉陽谷(リュウ・ヨウコク)。噂に聞くとかなり冷たく(ハン)賢妃の懐妊が分かった際にも「そうか。」としか返さなかったそうな。

つまり取り入るのはかなり難しいタイプ。普通に媚びるだけでは相手にもしてくれないだろう。すると、目の前にある大きな扉がゆっくりと開いた。中には凝った装飾が施された玉座に皇帝が座っていた。