「愛琳様、起きてくださいませもう朝ですよ?」

私は侍女の桃麗(タオリー)の言葉で朝を迎えた。

彼女は私と歳が一番近い、幼馴染の侍女で偶に本音でと言っても私は三割くらいだけど、話し合えるような仲であった。

時計を見ると昨日起きようと思っていた時間より十分も過ぎていた。

「ごめんなさいね…もう十分も過ぎてるわね、」

私が眉を下げると桃麗が滅相もないというように首を振った。

「いいえ、十分くらい大丈夫ですよ、お気になさらないでください」

いきなり侍女になったため、最初は敬語が板につかなかった桃麗だが、最近はとても様になっている。

しかし、私としては幼い頃の唯一の友人がどんどん遠い存在になってしまうような胸が詰まった。

「他の侍女がお召し物を用意致しておりますので、参りましょう」

私はそうね、とだけ返し寝台を下りた。すると、侍女達が何やら言い争っているのが聞こえる。

「愛琳様には桃色が似合うに決まっているでしょう!?」

「いいえ、愛琳には白色が似合うに決まってます!」

朝から私の侍女達は私の着ていく我が国の伝統服、游服(ユウフク)を何にするかでバチバチに揉めていた。

思わず私は苦笑しながらも愛されてるんだなぁと日常の小さな幸せを噛み締めながら白いドレスを手に取った。

「はいはい、朝から私のためにありがとう。どれも素敵な游服だけど…今日は白色を着ていきたいと思ってたの、だからこれにしてくれる?」

私がそう微笑むとさっきまで揉めていた侍女達は元気よく返事をして、すぐに分担をして私の着替えを手伝った。相変わらずこういう時の団結力は一級品だ。

私に游服を丁寧に着せ、髪を所謂ハーフアップのように結い上げると沢山の髪飾りを取り付けた。出来上がると侍女達は口々に私を褒めちぎった。

「お綺麗です、愛琳様⋯!」

「この世で1番お綺麗です、愛琳様!」

次々と出る褒め言葉に言われている此方が恥ずかしくなってしまう。

「大袈裟よ、ほら貴方達も着替えてらっしゃい?」

侍女達は慌てて着替えに行く。椅子に座りながら、父の事を考えた。

娘がもう二度と帰って来られないと言うかもしれないのにあの男は家臣と狩りに出かけているらしい。元々娘を道具としか思っていないような男だったため、当たり前か。

私は溜息をつき、侍女達の着替えを待った。

「愛琳様、私達は用意が整いましたので、何時でもどうぞ」

その言葉に私は頷く。

「そうね⋯そろそろ行きましょうか」

私は外へと繋がる扉を開けた。外に出るのは何年ぶりだろうか?屋敷を出ると馬車に乗り込む。遠くなっていく屋敷に、幾ら楽しみにしていたとは言え少し虚しい気持ちになる。

いや、あの男の元から離れられると考えるなら清々しているのか、葛藤を抱え思わず酔いそうになる。しばらく経つと馬車が止まった。