煌びやかな装飾品に囲まれた一室。その中央にある玉座のような椅子に座った男が申し訳なさそうに口を開いた。

「すまない…愛琳(アイリン)、陛下よりお前を後宮に入内せよと勅命を奉じた。急で悪いが入内の用意をしてくれ。後宮で国母になれるよう努めなさい」

私、愛琳には許嫁が居た。同じくらいの階級の家の息子で特に思い入れもない。

寧ろこの国の頂点に君臨する皇帝の後宮に入れるというならそちらの方がいいに決まっていた。

私の家、()の一族は先帝の付き合いがあり、今の朝廷にも影響力がある高貴な家だ。蔑ろにはされないだろう。

しかし男、元いい父にそれを悟られぬよう私は悲しむ素振りを見せた。

「そう、、ですか…承知いたしました。入内の用意をしてまいります。」

私は拱手礼をして部屋を出る。思わず笑みがこぼれそうになった。

私の父は時々外廷に赴くため噂程度に話を聞く。どうやら帝の徳妃、いや元徳妃蘆雪梅(ロ・シュェメイ)は詳しくは知らないが何か粗相を犯し冷宮行きになったそうな。

このタイミング、そして私の身分を考えると私は蘆元徳妃の後釜だろう。いきなり四夫人、正一品の妃となれば陛下に近付けるということだ。しかも他の妃たちを蹴落とし、皇后の座を手に入れる。正に私の得意分野であった。

「(心が躍るわ…!)」
上がりそうになる口角を必死に抑え、部屋に戻った。
私は各々仕事をしている侍女達を集めた。

「入内の用意をして頂戴。時間がなくて申し訳ないけど…お願いね?」

皆を見回してそう言うと侍女の美鈴(メイリン)が嬉しそうな顔した。

「愛琳様もしや、飛龍(フェイロン)様へ輿入れなさるのですか!?」

その言葉を始めに「おめでとうございます!」や「ついにですか!!」と侍女たちが騒ぎ立てる。

飛龍は私の元婚約者だったため、勘違いしているのだろう。私はにこやかに彼女達を制止するが、少し胸が締め付けられるようなそんな気がした。

きっと明日からはこの娘達もきっと借りてきた猫のように大人しくなるんだと思うと私まで萎れそうだった。そんな気持ちをかき消すよう、私は大袈裟に咳払いをして言った。

「違うわよ、、私明日陛下の後宮に入内することになったのよ」
すると侍女達は呆気にとられたようになる。しかしすぐにまた既視感を感じるような光景が広がった。

私はクスリと笑うとまた彼女たちを制止する。

「ほら、貴方達も騒いでないで私の用意を手伝って頂戴。終わったら自分の用意をしてさっさと寝なさい?明日は早いわよ」
侍女たちはその瞬間立ち上がり私の荷物の用意を手伝った。何だかんだ仕事は早く優秀な子ばかりなのである。

最後の侍女が拱手礼をして部屋を去るまで私は終始にこやかな笑みを張り付けた。

扉が閉まった瞬間、私は口角を落とした。私は寝間着に着替え寝台に横になった。

私は侍女たちにも本心を話すつもりはない。ないとは思うけどもし私が不利な状況になった時決定打になるような言動は絶対にしない。女なんてきっとそんなもの、自分を守るためならあっさりと裏切るのよ。私は髪を櫛で梳かした後、重たい瞼を閉じた。