「雅人、別れよう」
「え? 何だよ急に。冗談だろ?」
 女が別れを口にするのは突然だけれど、それは別れを切り出すタイミングを見計らっていただけで、実際には突然別れを決意することはない。
「もう限界だよ。雅人は私のこと全然わかってない」
「そんなことねえよ! 今日だってほら、このぬいぐるみ、結月のために――」
「ごめん。お酒が入ってる時に話すことじゃなかったね。今日は帰って」
 雅人が腑に落ちないというような表情を向けるが、理解できないのは雅人が酒に酔っているせいでないことはわかっていた。
 徐に立ち上がった雅人は、黙って部屋を出ていった。

 部屋を見渡した結月は、かつての自分の部屋を思い出した。
 結月の部屋も物で溢れていた時期があったが、引っ越しの度に持ち物を整理して手離していくうちに、気持ちに変化が表れた。
 生活空間が整理されていると心の中も整理され、不思議なくらい仕事に集中できるようになったのだ。仕事以外の人間関係も必要最小限に抑えたことで、余計なストレスからも解放された。それからは、自分が本当に必要かどうかで物事を判断するようになった。
 けれども、恋愛に関してだけはそう簡単にはいかず、駄目だとわかっていながらもだらだらと関係を継続させてしまっていた。このまま一緒にいても自身の負担が増えるだけで、心は荒む一方だ。

 結月は情に流されそうになるのを必死に踏んばり、話し合いの末に雅人との関係に終止符を打った。