「川北さんは今回も飲み会来ないよね」


分かっているのならなぜ聞くのよ。
断定的な問いにむくれ顔で頷いた。定期的におこなわれる『飲み会』には基本参加しない。お酒が入ると人間の欲ばかりが垣間見えて苦手だ。普通にお酒弱いし。

中途半端にとまっていた資料作りを再開しようとパソコンのキーボードに手を伸ばせば隣から伸びた手が私の左手をつかみそのまま上にあげた。


「川北星子さん、参加します」


「え」

少し高い声でそう言い放ったのは後輩の三瀬くんである。そして私の方をみていたずらっ子のように笑った。声、全然似てないんだけど。似せる気もなさそうだけど。


「ついでに俺も参加します」

私の参加を苦い顔で頷いたと思えば、三瀬くんの言葉により花が咲いたように一気に明るくなった同期の女は「了解でーす!」とスキップする勢いで次の人へと飲み会参加の可否を質問する。

そして耳元でこういうのだ「三瀬くん来るらしいわよ、絶対行こう」と。きこえないけど絶対言ってる。


「ちょっと三瀬くん、私行くなんて言ってないよ」


「たまにはいいじゃないですか、俺の歓迎会も来なかったでしょ」


「だって」


ただでさえ飲み会なんて欲望の塊がうごめいているのに、三瀬くんいたら女たちのそれが倍になる。
それだけで酔ってしまいそうだ。

とは、言えず。


「お酒、弱いから」

まあ、これも事実。


「意外ですね」


「なんでよ」


「酒豪な感じしますよ、限界まで飲んで酔っ払いながらマヨネーズでとんでもない高さの巻きグソ作ってそう」


「ちょっと!」と彼の肩を軽く叩くと、何が面白いのがツボっている三瀬くん。あなた綺麗な顔して「巻きグソ」なんて言わないでよ。教育係が何教えてんだってなっちゃうんだから。


「最高何巻きくらいいくんですか?こんど目の前で見せてくださいね、くっ、ははは!!」


「もう!」


私はデスクに置いていたチョコレートを荒々しく開けて彼の口に押し付けた。


「むぐ」


「小学生みたいな内容でツボらないでよ三瀬くん」


口の中に入ったチョコレートを舐めながら「すみません」と小さく謝った三瀬くん。本当にこの人は。


「星子さん」

「なに」

「チョコレート美味しいです」

「そりゃよかった」