高校一年生のわたし、姫路やよいには、なんだか気になる人がいた。
男の子だ。
「天橋、これみんなに配ってくれ」
彼の名前は、天橋輪吾くんという。
四時間目の授業が終わり、昼休みになった。数学の先生が天橋くん一人にノートの山を託した。
あの先生はどうやら、天橋くんを都合のいいパシリにしているらしい。しょっちゅう彼に、鬼のような頼み事をする。
「了解しました」
天橋くんは少し気だるそうな顔をしつつも、口では丁寧に引き受けた。なんていい子なんだろう。
あの年の男子なら「はあ? ヤだよ、メンドクセーよ!」なんて反発するのが大半だ。
渋々引き受けたとしても「メンドクセェ……」と恨み言をいうのが普通だろう。
でも彼はそこまで_悪態をつくこともなく「了解しました」とちゃんと丁寧な言葉を使っていた。珍し。
彼の外見は一言でいえば、メガネをかけた地味男くんだ。漫画でよく見る〝いじめられっ子系主人公〟。
熱血系主人公とは違って、なよなよしていて自身がなくて、仕事にも恋愛にも奥手なウブな男の子。見た目は完全にそれ系だ。
「姫路さん」
うわさをすれば、いつのまにかわたしの背後に彼がいた。
「あ、地味……天橋くん」
「今地味っつったか? ずっと僕を見ながら何考えてたの」
「んーとぉ、君はまるで少年漫画の主人公みたいだなって」
「へえ、どんな?」
「後に最強の味方と出会って、物語で一番伸びる系の」
「ようは雑魚ってことか」
天橋くんは不満げな顔で、わたしのノートをわたしの机の上に置いて、去っていった。
「あ、手伝うよ」
わたしは彼を追いかけて、ノートを配るのを手伝った。
「ありがとう。助かったよ」
天橋くんはやさしい笑顔で、わたしに十数冊のノートを渡した。
(わたしのほうが多いなぁ)
たった二冊の差だけど。
ノートを全て配り終わったわたしと天橋くんは、一緒にお昼を食べることにした。
天橋くんに誘われた。急に決まりが悪そうに目をそらして言い出した。
「あのさ、……お昼一緒に行かない?」
「いいよ」と即答した。
そしてわたしは彼の顔にグイっと近づいて、彼に言った。
「やっぱキミ、ウブだねっ」
彼はさらに決まりが悪くなったようで、ムキになって叫んだ。
「誰がウブだ!」
ふふふっ。面白い子。
わたしは彼を気に入った。
♡ ♡ ♡
「うっひょ〜! いちごだっ!」
お弁当の中身はいちごサンド。いちごにたっぷりのホイップクリームがたまらなくおいしいのだ。あぁ、おいしそ……。
「……え、これがお昼ご飯?」
わたしのいちごサンド弁当を見た天橋くんは、なぜか顔をしかめていた。
「うん! 毎日これなの」
「えぇ、糖尿病になるよ」
「そんなの、いちごとホイップのしあわせパワーでやっつけちゃうから大丈夫だよ」
対して天橋くんの昼食は、この食堂で買ったからあげ丼である。
「なんかふつうの男の子って感じだね」
「いいだろ! 王道をナメんな!」
そういって天橋くんは、からあげをほおばった。わたしもホイップたっぷりのいちごサンドをほおばった。
「カワイイ女がいるじゃねーか」
そこへ、見るからにガラの悪い大柄の男が、手下らしきガラの悪い男二人を引き連れてやってきた。
「何ですか、あなたたちは」
天橋くんは顔をしかめて男たちに言った。
しかし大柄の男は天橋くんの問いを無視して、わたしに接近してきた。
「お前、オレサマの女にしてやらァ」
急になんなのこいつ。
わたしはモグモグしていたいちごサンドを飲み込んで、奴にハッキリ言ってやった。
「嫌です」
「……は?」
男は唖然とした。
わたしはさらに畳み掛けるように言った。
「わたしの至福のいちごタイムを邪魔しないでもらえます?」
そう言って、わたしはまたいちごサンドを頬張った。
「……テメェ……よくもオレサマを振りやがったなぁ!!」
「いや、こうなるに決まってるじゃないですか。バカですか。セクハラかパワハラで訴えますよ」
「うっせぇ!! オレサマに逆らうとどーなるか、その顔に叩き込んでやらァ!!」
男は激昂して、わたしに拳を振りかざした。
すると天橋くんがイスから立ち上がり、男の拳を片手で受け止めた。
「なっ!」
男は衝撃を喰らっていた。
「ツッチーの拳を片手で受け止めただと……!!」
後ろの取り巻き二人も同様に。
つーか、さっきからコイツらベタすぎるだろ。
「あの、やめてもらえます? 今食事中なんで、迷惑です」
天橋くんは、言葉は丁寧ながらも圧をかけていた。怒っていた。そりゃあ当たり前なんだけど。
「あァん!? ンだよ、地味メガネ!! テメーなんか及びじゃねーんだよォ!!」
しかし男はちっとも怯む様子もなく、むしろより高圧的になった。やっぱり地味男くんだから、ナメてるのか。
「オイ、地味メガネ! あんまりツッチーをバカにしてんじゃねーぞ!」
「ツッチーはなァ、テメーみてェーな地味メガネに敵う相手じゃねーんだよォ!」
「大人しくからあげ食ってろよ」
取り巻き二人は高々に笑った。清々しいほどにベタなチンピラだ。
「……ハァ、めんどくせーな」
天橋くんはそう口にすると、メガネを外して机に置いて、スボンのポケットに手を突っ込んで、男たちをギロリと睨んだ。
さっきまで調子に乗りまくっていたのがウソのように、男たちは黙って警戒した。
さらにツッチーと呼ばれていた男は、ハッと何か思い出したような顔をした。
「お前まさか……〝Malus《マラズ》〟の総長・天橋輪吾か?」
「天橋……!」
「それってあの……」
「黙れボケナス」
天橋くんは、ざわめく男たちを一蹴した。打って変わってめっちゃ汚い言葉で。
「総長はもう引退したんだよ。いい加減、平凡に生きてーのに、しつこく絡んでくんじゃねーよ」
わたしは意味が分からなかった。マラズ? 総長? 不良ってこと? 天橋くんが? あの地味男くんが? ウソでしょ!?
混乱していると、天橋くんはわたしの弁当に手を伸ばして、わたしのいちごサンドを勝手に食べた。
「テメー! 何勝手に人のいちごサンドを!!」
「やっぱこれ、甘すぎんな」
「聞いてんの!?」
コノヤロー。ヤツのキャラが変わりすぎて気が狂いそうだ。
「帰りな。テメーなんかじゃ、こいつとは釣り合わねぇよ」
天橋くんは、あごでわたしを指しながら言った。なんかムカつく。
「ああン!! ナメてんのか、テメー!!」
男は激昂した。短気な奴だ。
「だからダメなんだよ。気ィ短いヤツは、姫路さんどころか多くの男女に好かれねェ」
天橋くんは、なぜか説教していた。
「ああン!! 不良ってのは、気が短くてナンボなんだよォ!!」
開き直りやがった。
「ブスデブのクセに性格まで最悪になったら、この世の終わりだろーが!」
お父さんかよ。
「………オレァもう諦めた身なんだよ!! 女なんていらねーって!! 腕っぷしだけで生きていくって!!」
なんだか、切なくなってきたな……。
「クソが。何の努力もしねーで、生きていけるわけねーだろーが! いらねーなんて言って、なんでナンパなんてしたんだ!」
さっきからなんなんだろう。元総長・天橋くんの正論の暴力は。
「そりゃあ、一目惚れしたからに決まってんだろ!! 一目見てビビッと来たんだよ!!」
よくそんな恥ずかしいこと大音量で言えるなぁ。聞いてるこっちが恥ずかしい。てか、当事者だし。
それにここは食堂だ。人もいっぱい集まってるところでこんな騒動を起こしているせいで、ほぼ全校生徒の注目の的になっている。
「じゃあなんで惚れた女を殴ろうとしたんだ、クソヤロー! テメーみてーな暴君に誰がくっつきてーんだよ!」
「うっせー!! オレサマに歯向かう奴は全員死刑じゃー!! もちろんお前もな!!」
男はそう叫んで、天橋くんに殴りかかった。
「はい。お前の負け」
いつのまにか天橋くんは男の背後にいた。そして男の首根っこをトンと叩いて気絶させた。
すると彼は、それまで空気だった取り巻き二人を脅し、倒れた男を担いで撤退させた。なんと、チンピラ共を撃退してしまった。首トンを除けば、一切の暴力を使うことなく、言葉でだ。
おおーっ。と、周囲から拍手喝采が巻き起こった。天橋くんは、我が高校の英雄となった。
そんな天橋くんは、わたしを見下ろして呆れていた。
「おい、何勝手に人のからあげ丼食ってんだよ」
「いちごサンドの仕返しじゃ」
「お前、よく他人が使ってた箸で食えるな」
「仕方ないじゃん、これしかないんだから」
というと、天橋くんはため息をついて、メガネをかけた。
「まったく、姫路さんは食い意地旺盛だな〜」
メガネをかけた瞬間に、彼はメガネを外す前の地味男くんのキャラクターに戻った。
もしやこの人、二重人格では? わたしはますます彼のことが気に入ったようだ。
「はい、もういいよ」
わたしは彼に、からあげ丼のもうごはんと野菜しかない、もはや野菜丼と化したやつを渡した。
「いやもう、全部食べていいから」
天橋くんは、引き気味に言った。
だからわたしは、遠慮なくどんぶりを空にした。
男の子だ。
「天橋、これみんなに配ってくれ」
彼の名前は、天橋輪吾くんという。
四時間目の授業が終わり、昼休みになった。数学の先生が天橋くん一人にノートの山を託した。
あの先生はどうやら、天橋くんを都合のいいパシリにしているらしい。しょっちゅう彼に、鬼のような頼み事をする。
「了解しました」
天橋くんは少し気だるそうな顔をしつつも、口では丁寧に引き受けた。なんていい子なんだろう。
あの年の男子なら「はあ? ヤだよ、メンドクセーよ!」なんて反発するのが大半だ。
渋々引き受けたとしても「メンドクセェ……」と恨み言をいうのが普通だろう。
でも彼はそこまで_悪態をつくこともなく「了解しました」とちゃんと丁寧な言葉を使っていた。珍し。
彼の外見は一言でいえば、メガネをかけた地味男くんだ。漫画でよく見る〝いじめられっ子系主人公〟。
熱血系主人公とは違って、なよなよしていて自身がなくて、仕事にも恋愛にも奥手なウブな男の子。見た目は完全にそれ系だ。
「姫路さん」
うわさをすれば、いつのまにかわたしの背後に彼がいた。
「あ、地味……天橋くん」
「今地味っつったか? ずっと僕を見ながら何考えてたの」
「んーとぉ、君はまるで少年漫画の主人公みたいだなって」
「へえ、どんな?」
「後に最強の味方と出会って、物語で一番伸びる系の」
「ようは雑魚ってことか」
天橋くんは不満げな顔で、わたしのノートをわたしの机の上に置いて、去っていった。
「あ、手伝うよ」
わたしは彼を追いかけて、ノートを配るのを手伝った。
「ありがとう。助かったよ」
天橋くんはやさしい笑顔で、わたしに十数冊のノートを渡した。
(わたしのほうが多いなぁ)
たった二冊の差だけど。
ノートを全て配り終わったわたしと天橋くんは、一緒にお昼を食べることにした。
天橋くんに誘われた。急に決まりが悪そうに目をそらして言い出した。
「あのさ、……お昼一緒に行かない?」
「いいよ」と即答した。
そしてわたしは彼の顔にグイっと近づいて、彼に言った。
「やっぱキミ、ウブだねっ」
彼はさらに決まりが悪くなったようで、ムキになって叫んだ。
「誰がウブだ!」
ふふふっ。面白い子。
わたしは彼を気に入った。
♡ ♡ ♡
「うっひょ〜! いちごだっ!」
お弁当の中身はいちごサンド。いちごにたっぷりのホイップクリームがたまらなくおいしいのだ。あぁ、おいしそ……。
「……え、これがお昼ご飯?」
わたしのいちごサンド弁当を見た天橋くんは、なぜか顔をしかめていた。
「うん! 毎日これなの」
「えぇ、糖尿病になるよ」
「そんなの、いちごとホイップのしあわせパワーでやっつけちゃうから大丈夫だよ」
対して天橋くんの昼食は、この食堂で買ったからあげ丼である。
「なんかふつうの男の子って感じだね」
「いいだろ! 王道をナメんな!」
そういって天橋くんは、からあげをほおばった。わたしもホイップたっぷりのいちごサンドをほおばった。
「カワイイ女がいるじゃねーか」
そこへ、見るからにガラの悪い大柄の男が、手下らしきガラの悪い男二人を引き連れてやってきた。
「何ですか、あなたたちは」
天橋くんは顔をしかめて男たちに言った。
しかし大柄の男は天橋くんの問いを無視して、わたしに接近してきた。
「お前、オレサマの女にしてやらァ」
急になんなのこいつ。
わたしはモグモグしていたいちごサンドを飲み込んで、奴にハッキリ言ってやった。
「嫌です」
「……は?」
男は唖然とした。
わたしはさらに畳み掛けるように言った。
「わたしの至福のいちごタイムを邪魔しないでもらえます?」
そう言って、わたしはまたいちごサンドを頬張った。
「……テメェ……よくもオレサマを振りやがったなぁ!!」
「いや、こうなるに決まってるじゃないですか。バカですか。セクハラかパワハラで訴えますよ」
「うっせぇ!! オレサマに逆らうとどーなるか、その顔に叩き込んでやらァ!!」
男は激昂して、わたしに拳を振りかざした。
すると天橋くんがイスから立ち上がり、男の拳を片手で受け止めた。
「なっ!」
男は衝撃を喰らっていた。
「ツッチーの拳を片手で受け止めただと……!!」
後ろの取り巻き二人も同様に。
つーか、さっきからコイツらベタすぎるだろ。
「あの、やめてもらえます? 今食事中なんで、迷惑です」
天橋くんは、言葉は丁寧ながらも圧をかけていた。怒っていた。そりゃあ当たり前なんだけど。
「あァん!? ンだよ、地味メガネ!! テメーなんか及びじゃねーんだよォ!!」
しかし男はちっとも怯む様子もなく、むしろより高圧的になった。やっぱり地味男くんだから、ナメてるのか。
「オイ、地味メガネ! あんまりツッチーをバカにしてんじゃねーぞ!」
「ツッチーはなァ、テメーみてェーな地味メガネに敵う相手じゃねーんだよォ!」
「大人しくからあげ食ってろよ」
取り巻き二人は高々に笑った。清々しいほどにベタなチンピラだ。
「……ハァ、めんどくせーな」
天橋くんはそう口にすると、メガネを外して机に置いて、スボンのポケットに手を突っ込んで、男たちをギロリと睨んだ。
さっきまで調子に乗りまくっていたのがウソのように、男たちは黙って警戒した。
さらにツッチーと呼ばれていた男は、ハッと何か思い出したような顔をした。
「お前まさか……〝Malus《マラズ》〟の総長・天橋輪吾か?」
「天橋……!」
「それってあの……」
「黙れボケナス」
天橋くんは、ざわめく男たちを一蹴した。打って変わってめっちゃ汚い言葉で。
「総長はもう引退したんだよ。いい加減、平凡に生きてーのに、しつこく絡んでくんじゃねーよ」
わたしは意味が分からなかった。マラズ? 総長? 不良ってこと? 天橋くんが? あの地味男くんが? ウソでしょ!?
混乱していると、天橋くんはわたしの弁当に手を伸ばして、わたしのいちごサンドを勝手に食べた。
「テメー! 何勝手に人のいちごサンドを!!」
「やっぱこれ、甘すぎんな」
「聞いてんの!?」
コノヤロー。ヤツのキャラが変わりすぎて気が狂いそうだ。
「帰りな。テメーなんかじゃ、こいつとは釣り合わねぇよ」
天橋くんは、あごでわたしを指しながら言った。なんかムカつく。
「ああン!! ナメてんのか、テメー!!」
男は激昂した。短気な奴だ。
「だからダメなんだよ。気ィ短いヤツは、姫路さんどころか多くの男女に好かれねェ」
天橋くんは、なぜか説教していた。
「ああン!! 不良ってのは、気が短くてナンボなんだよォ!!」
開き直りやがった。
「ブスデブのクセに性格まで最悪になったら、この世の終わりだろーが!」
お父さんかよ。
「………オレァもう諦めた身なんだよ!! 女なんていらねーって!! 腕っぷしだけで生きていくって!!」
なんだか、切なくなってきたな……。
「クソが。何の努力もしねーで、生きていけるわけねーだろーが! いらねーなんて言って、なんでナンパなんてしたんだ!」
さっきからなんなんだろう。元総長・天橋くんの正論の暴力は。
「そりゃあ、一目惚れしたからに決まってんだろ!! 一目見てビビッと来たんだよ!!」
よくそんな恥ずかしいこと大音量で言えるなぁ。聞いてるこっちが恥ずかしい。てか、当事者だし。
それにここは食堂だ。人もいっぱい集まってるところでこんな騒動を起こしているせいで、ほぼ全校生徒の注目の的になっている。
「じゃあなんで惚れた女を殴ろうとしたんだ、クソヤロー! テメーみてーな暴君に誰がくっつきてーんだよ!」
「うっせー!! オレサマに歯向かう奴は全員死刑じゃー!! もちろんお前もな!!」
男はそう叫んで、天橋くんに殴りかかった。
「はい。お前の負け」
いつのまにか天橋くんは男の背後にいた。そして男の首根っこをトンと叩いて気絶させた。
すると彼は、それまで空気だった取り巻き二人を脅し、倒れた男を担いで撤退させた。なんと、チンピラ共を撃退してしまった。首トンを除けば、一切の暴力を使うことなく、言葉でだ。
おおーっ。と、周囲から拍手喝采が巻き起こった。天橋くんは、我が高校の英雄となった。
そんな天橋くんは、わたしを見下ろして呆れていた。
「おい、何勝手に人のからあげ丼食ってんだよ」
「いちごサンドの仕返しじゃ」
「お前、よく他人が使ってた箸で食えるな」
「仕方ないじゃん、これしかないんだから」
というと、天橋くんはため息をついて、メガネをかけた。
「まったく、姫路さんは食い意地旺盛だな〜」
メガネをかけた瞬間に、彼はメガネを外す前の地味男くんのキャラクターに戻った。
もしやこの人、二重人格では? わたしはますます彼のことが気に入ったようだ。
「はい、もういいよ」
わたしは彼に、からあげ丼のもうごはんと野菜しかない、もはや野菜丼と化したやつを渡した。
「いやもう、全部食べていいから」
天橋くんは、引き気味に言った。
だからわたしは、遠慮なくどんぶりを空にした。