会社からの帰宅途中、街中。ふと、もう彼の顔を思い出せないことに気付いた。
あんなに想い焦がれた、彼の顔。

赤信号、横断歩道。立ち止まって、彼の顔にぼんやりかかったもやを剥がそうと躍起になる。だめだ、もう、思い出せないんだ。
青信号に気付いたときは、もうそれは点滅していた。

時間が経ったのだ。もう、あれから幾度となく夏が来て、私が想って泣いたあの季節から遠ざかっていく。
顔も思い出せないくらいに。

もうすぐ蝉が鳴き始める。
少し、寂しかった。