すれ違う刹那

あなただけを

苦しい程

想って




中学生だった。愛だの恋だの、よく分かってなどいるはずもない、あの頃。
想う人がいた。廊下ですれ違うたび、スローモーションは簡単に起こる。映画のような、その瞬間。私はあなただけを見つめた。
想うだけで苦しいとは、どういうことなのだろうと不思議であったけれど、とにかく想うばかりだった。

彼が目の前にいる。今、現在、この瞬間。あれから10年、今日は同窓会だった。あの瞬間が蘇る。私はスローモーションの中振り返り、そしてあなたは私には目もくれず行ってしまう。それは今も変わらない。目の前に座る私には目もくれず、同級生との会話に夢中だ。
けれどあの瞬間は永遠だ。あの頃も、現実も、なにひとつそぐわなくても。
私の中の、あのスローモーションは、永遠に美しいまま、消えることはないのだ。

今日くらい声をかけよう、なんて思わない。思い出は、美しいままで。
誰にも気づかれないようそっと微笑んで、グラスを傾けた。