何を焦っていたのか、頭の中に浮かんでいた言葉がそのまま口から出てしまっていた私に、彼は再び「ふっ」と小さく声を漏らして薄笑う。


明らかに高校生には見えないミステリアスな大人の男性が、実は最初から起きていたのか、あまり眠くもなさそうな顔で上半身を起こしてそこに座っていた。


「キミ、変わり者って言われない?」

「え。言われない、です。あ、でも、“ちょっとクセあるよね”とは言われたことあります、昔!」

「……ぷっ。それ、全然褒められてないよ」


通信制高校時代の友達……と呼んでいいのか甚だ疑問だが、一応クラスメイトだった女の子に言われたその一言を思い出し素直に答えると、彼はまた不意を突かれたみたいに私から目線を落として小さく笑った。


な、なんなんだ……?さっきから人の顔見て笑ってばかりで、失礼な人だな。

そもそもこんな先生、少なくとも私が転入してからは一度も見たことがない。


服装もちょっと教師にしてはルーズだし、ピアスとかしてるし、こう言ってはなんだけど、私の考える先生のイメージ像とはえらくかけ離れているような……。

横になっていたにも拘らず完璧にセットされたままの美しい黒髪を見ても、先生らしさは微塵も感じられず、私は勝手に困惑してしまう。

本当にこの人、この学校の先生なの……?


もはや半信半疑……どころか7割強くらい疑いの眼差しを向けていると、それに気付いたその人は、わずかに緩んでいた頬をすっと引き締めて、ほとんど真顔の状態で私に視線を返した。


「色々妄想させてるとこ悪いけど、俺はここの教師じゃないよ」

「へえ、教師じゃない……って、え!?教師じゃないんですか?」

「そもそも教師に見えないって目で疑って見てたんじゃなかったの?」


そう、それはそうなんだけど。

私の考えていることを明確に言い当ててくるこの感じ、どこか白亜のそれと似ている気がしないでもないが、纏っている雰囲気はまた彼とは少し異なるものを感じる。

それはどちらかというと――弟、黒芭くんに近いような、そんな感じ。


この人、恐らく生徒では絶対にないだろうし(矛盾してるけど)、さらに教師でもないなら、じゃあ一体何なの……?

正体がわからず逆に不審さが強まった彼を見て、私は正直に顔を歪ませた。


「そもそも俺のこと知らないんだ。そっちの方がよっぽど意外、かも」


そんな私に対して少し興味を惹かれた顔をしたその人が、顎に手を添えた絵になる仕草で不思議そうに呟いた。