「それじゃ、日直、号令――」

あれからHIRAさんと何往復かメッセージを交わし、今日の放課後、実際に彼女自ら動物病院まで足を運んでくれることとなった。

どうにか糸口が見えて来た私は、今日1日そわそわと落ち着かない様子で夕方が来るのを待っていた。


「なー、それほんまに大丈夫なん?」

「アタシも結構心配なんだけど。やっぱ病院までついて行くか?」


放課後、間の生徒がいなくなった端っこのそれぞれの席で、颯介くんとエレナは揃って不安そうに顔をしかめている。

それもそのはず、高校生の私が同性とはいえ昨日インターネットで知り合ったばかりの見ず知らずの大人の人と早速会うことになるなんて、友達としては心配な他ないだろう。


気持ちは嬉しいけど、それでも私は、

「大丈夫だって!HIRAさん、良い人そうだもん」

そう言って元気良く二人に笑って見せた。


「良い人そうってアンタ……。って言ったそばから悪いんだけど、ジジイの呼び出しきたわ……」

「相変わらず、高松先生には頭上がらないね、エレナは……」

「あのジジイ、キレるとマジで天変地異揺るがしかねない事態に陥るからな。あの歳で超サイヤ人くらいムッキムキだし超こえーの」


そう言ってスマホを手に顔を苦める彼女だけど、文句ばかり言う割りにはちゃんと律儀にお師匠さんに課せられたスパルタ指令をこなしているのだから凄まじい。

それに、見た目は比較的小柄とも言える高松先生が、服を脱いだら筋肉マッチョなお爺ちゃんだという事実は何気に興味深くて、ちょっと見てみたい気にすらなる。


「んまー、菜礼の護衛は漆黒の騎士・黒芭様に委ねるとしますか。シロは早々に仕事で帰っちゃったわけですし」

「せやな。頼んだで、漆黒の騎士・黒芭様?」


二人は珍しく目が覚めている背後の黒芭くんを、中二病真っ最中みたいな綽名をつけて呼び、エレナはそのまま高松先生の元へと、颯介くんはサッカー部の練習へと赴くため同時に席を立った。


「は……?なんで俺が」

ちゃっかり話を聞いていたらしい黒芭くんは、不本意を顔全体にべったりと貼り付けて、揚々と去って行く二人の背中を睨む。(しかし綽名にはツッコまない)


「……。お前、毎日白飯3杯くらいお替わりしてるみてーだけど、その服の下の贅肉、無駄に肥やしてねーんだろうな」

「え!?こ、肥やしてないよ多分、そんなには。っていうか3杯もお替わりしてないから!最初に大盛りに注ぎ足してるだけだもん。だから正しくは2杯」

「……」


私の言葉に、隠す気も無くドン引きした顔を見せる彼を気に留めることなく、私はたった今新たに届いた例のアプリのメッセージ通知を確認する。


「あ、あと20分くらいでHIRAさん、病院に着くみたい!私たちももう出なきゃ!」

「……ったく。マジで100gでも太ってたらチャリから振り落とすからな」


本気か冗談かわからないような声でそう言い放つと、彼はゆっくりと席を立ってカバンを荒っぽく肩に背負う。

「100g!?それはちょっと厳しすぎない!?って、堂々と置いてかないでよ!!」

私はひとりでに教室を出て行く彼の背中を追って、昇降口へ急ぐのだった。